1-2その2

 ケイタとソウタのクラスを引率してくれる遠山先生は、ベテランの先生なので、とても安心です。きっと恐竜探しのコツもよく知っているでしょう。

「今日は歩いて恐竜のコロニーに向かいます。一時間とちょっとくらい歩きますので、がんばりましょう!」

 恐竜のあかちゃんを探すのは恐竜センターの研究員の人たちが事前に調査してくれた恐竜の巣の周辺で行います。観察基地はジャングルの真ん中にある父岳と名のついた中央火口丘の麓にあります。結構奥に作られているので、比較的そばに恐竜の巣があったりするのです。

 話を聞いたミサキは、怪訝そうな顔で遠山先生に質問しました。

「恐竜のコロニーって、恐竜の巣の事ですか?」

遠山先生は、おっとしまった!という感じの表情で説明してくれました。

「きょうりゅう島の恐竜たちはほぼ全て巣を作って子育てをするという特徴があるのですが、特に草食恐竜は沢山の親たちが一ヵ所に集まって巣を作る傾向があります。これをコロニーと言うのですよ。」

「どうして、コロニーを作るんですか?」

今度はサクラが聞きました。

「卵や赤ちゃんを守るためだと言われています。天敵が来た時、集団で守るほうが生存率が高いと考えられています。」

サクラはミサキに聞きました。

「あれ?コロニーの事は恐竜の授業でやったっけ?」

「草食恐竜は集団で子育てするっていう事は習ったと思うけど・・・。」

遠山先生は付け足しました。

「コロニーって言葉は恐竜の教科書に載っていなかったかもしれませんね。失礼しました。」

サクラは、

「名前はともかく、何か習ったような気がしたの。納得、納得!」

 そんな話をしながら、ジャングルを進んで行きました。不思議な事に、ジャングルの道はけもの道のようなでありながら結構広く、意外と歩きやすくなっていました。

「コロニーは何年も同じ場所に作られる事が多いので、この道も毎年たくさんの四年生が歩いています。元々は道なき道みたいだったこの道も、今ではすっかり歩きやすい道なってしまいました。」

遠山先生はそんな事も教えてくれました。また、近くの地理についても解説してくれました。

「正面に見える大きな山が父岳です。左手にやや小さな二つの山が見えますが、手前の山は兄岳、奥の山は弟岳と言います。この三つの山は、外輪山よりは低いですがカルデラの中の山では一番大きな山々で、ジャングルのほぼ中心なんですよ。」

 男子は、みんな興奮しているせいか、そんな事にお構いなく、ワイワイ騒ぎながら歩いています。

「おれが最初に見つけてやる!」

ユウトはあいかわらずです。

 そのなか、ケイタとソウタはだまって歩いていました。ソウタは、

「恐竜をうまく捕まえたとしても、なついてくれるのかな?懐いてくれる奴だといいなぁ。」

そんなこと考えながら歩いていました。

 恐竜、特に草食恐竜はあまり細かいことは考えないようで、種類に関係なく一緒にいる生き物は、群れの仲間として受け入れてくれるようです。種類にかかわらず群れが大きいほうが、生き残る確率が高いことを経験的に理解しているからと考えられています。しかし、たまにへそまがりもいるようで、一匹狼のように誰も受け入れない子もいるそうです。特に巣からはぐれてしまうような子は、性格的にそんなはねっかえりが多いかもしれません。

 一方、ケイタはどんな恐竜を飼うのか、まだ悩んでいました。

「もし、ぼくが肉食恐竜を育てたら、ソウタの角竜と仲良くできるかな。そうなると、草食恐竜のほうが安心のような気がするな・・・。でも、草食恐竜は珍しくないよな。やっぱり珍しい恐竜を飼いたいなあ。」

ケイタは、頭の中はグルグル回っていました。しかし、そもそも珍しい恐竜がそう簡単に見つかるのでしょうか?それも大問題でした。


 一時間ほど歩きました。男子たちの口数もだんだん少なくなってきました。遠山先生は、

「目的地はもうすぐです。がんばりましょう!」

とみんなを励ましました。さらに、

「でも、ここからは、少し静かにお願いしますね。」

と付け加えました。どうやら、コロニーに近づいてきたようです。

 最初探す恐竜は有名なトリケラトプスでした。

「トリケラトプスはおとなしい恐竜ですが、あまりコロニーに近寄りすぎてはいけませんよ。子どもがいるので親の恐竜が警戒しておそってくるかもしれませんからね。」

遠山先生はそういって、コロニーにほぼ近くよく見える場所へ連れて来てきてくれました。

 サクラはトリケラトプスを見るといてもたってもいられず、

「すごい!トリケラトプスがたくさんいるわ!」

と思わず叫んでしまいました。恐竜センターでお世話して以来、トリケラトプスが大のお気に入りなのでした。

 すると、物音に驚いたのでしょうか、トリケラトプスが一斉にコチラを向いてしまいました。

「静かに!みんな伏せて!」

遠山先生が低い声で叫びました。みんなはびっくりして体を低くしました。花山先生にいたっては、地面に完全にうつぶせになっていました。

 少したってみんなが顔を上げると、もうトリケラトプスは何事も無かったかのようにのんびりしていました。

「ごめんなさい。」

サクラはみんな謝りました。遠山先生は

「気をつけましょうね。恐竜がびっくりしてしまいますからね。でも毎年、誰は叫んでますから。まあ、気にしすぎないでくださいね。」

といって、サクラをなぐさめてくれました。

 群れが落ち着いたようなので、みんなは双眼鏡を使ってよく観察しました。立派な角を持つ大きなトリケラトプスの足元には、小さなあかちゃんがたくさんいました。あかちゃんにもちゃんと小さな角が三本ありました。

「生まれたばかりあかちゃんは鳥みたいに親が吐き戻したものを食べて育ちますが、割とすぐに親と同じように草が食べるようになります。でも、巣の近くの草しか食べられないので、近くの草は子ども用にとっておいて、親恐竜はちょっと離れた餌場まで行って食事します。餌場に子どもは連れていくことはなく、もう一方の親恐竜が巣に残って交代で子供を守っています。ただ、好奇心の強いあかちゃんが、食事に行く親の方についていってしまい、そのまま迷子になってしまうことがよくあります。だから、コロニーの周りは特に迷子が多いのですよ。」

遠山先生は続けました。

「恐竜は見ての通り、非常に子沢山です。ですから大昔は、迷子ぐらいでは減ることなかったのですが、今は人間が来たせいで天敵が増えてしまいましたからね。」

 よく見ると、ちょろちょろ巣から飛び出して危なっかしい子もいます。さらに、ちょっかい出しあってコロニーの外に出てしまう子までいます。

「落ち着きがないわね!うちのクラスの男子たちみたい。じっとしてないからはぐれたゃうのよ。」

学級委員のミクが言いました。残念ながら、男子たちは反論できませんでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る