1-2その5
午後も徒歩で移動でした。ただし今度は父岳の近くではなく、やや北にある兄岳や弟岳の方に向かう道で、午前中に歩いた道よりだいぶ細い道でした。
「午後に行くのは一ヶ所だけの予定です。午前中よりも道がちょっと長いので、途中で何回か休憩を取りますね。」
遠山先生を先頭にケイタとソウタたちは、父岳を右手に見ながら兄岳へ向かって歩きました。途中、父岳と兄岳の間を流れる沢の近くで、長め休憩をとりました。みんなが水筒の麦茶を飲みながら休んでいる時、花山先生がみんなにクイズを出しました。
「この川はどこに流れて行くのでしょうか?」
みんなは、
「海!」とか「湖?」
とか答えました。
「ざんねん!湖はちょっと近いかな?正解は洞窟でした!」
花山先生は、少し得意げに答えを教えてくれました。
「このジャングルにはたくさんの洞窟があって、ジャングルの川の一部は洞窟に流れ込んで地下水になります。」
花山先生はさらに
「だから、島には温泉や湧水がたくさんあるのですよ。高い山に囲まれたジャングルでは、他の川も湖や池に注ぎ込んでいて、海に直接つながっていないのですよ。」
遠山先生はそれを聞いて、
「花山先生、地形とかに詳しいですね!」
感心しました。
「元々の専門は地理か何かですか?」
遠山先生がたずねると、
「わたしはダイビングが趣味で、一度で良いので地底湖に潜ってみたいと思い、調べたんですよ。」
「そういえば、最近はこのジャングルの手付かずの自然を目的に入山する人も増えてきていますよね。恐竜の保護があるので、太古の森がそのまま保存されてますからね。」
さて、再び出発です。さらに歩いて、休憩をもう一回して、兄岳が段々と近づいてきました。
「兄岳もよく見えますね。もうコロニーに着きますよ。」
遠山先生はみんなに言いました。
「やっと着いた・・・」
「ああ、疲れた。」
みんな探す前から疲れ気味でしたが、ソウタだけは違いました。
「絶対に捕まえないと!」
こころの中でつぶやきました。
今日最後の恐竜探しはハヤマケラトプスです。実はハヤマケラトプスはきょうりゅう島で初めて見つかった完全な新種の恐竜です。角竜ですが、トリケラトプスとはちょっと違うセントロサウルスのなかまです。ひたいの角はありませんが、鼻の角はトリケラトプスより立派で、前の方へ曲がっています。そして、普通のセントロサウルス亜科の恐竜と同様にフリルのフチに飾りの角がありますが、ハヤマケラトプスの場合はその角がとてもたくさんあり、細かく、薄く、鋭く進化して、ギザギザのノコギリ状になっています。ノコギリ竜とも言われ、ティラノサウルスなどの肉食恐竜におそわれても、フリルできりつけて闘い、身を守ってきたと考えられています。きょうりゅう島でこの恐竜が発見されたことで、北アメリカ大陸で見つかっていた化石の一部がこの恐竜のものだとわかったという、いままでの恐竜研究の常識とは逆のようなこともあったそうです。
ケイタとソウタにとって、この恐竜には特別な思いがありました。この恐竜は二人の父親が発見したのです。二人の父親の
「同じではありますが、きょうりゅう島の人たちが長いあいだ守ってきた恐竜とのきずなに敬意を表して、命名しました。」
とのことです。
いつものように最初に、遠巻きにコロニーを観察していると、親恐竜の一部が集団でコロニーから離れていきました。どうやら彼らの食事の時間のようです。遠山先生が低い声で叫びました。
「静かに!みなさん見つからないように、伏せてください!」
ハヤマケラトプスの一団は、みんなのいる方とは別の方角へ、のそのそと歩いていきました。ほっとして、観察を続けると、ほとんどのあかちゃんはコロニーの中に残っていましたが、ほんの数頭、親についてコロニーから出てしまいました。
「あっ、行っちゃダメ!」
ミサキは小さな声を上げましたが、数頭のあかちゃんは草むらの中に消えていきました。ミクは、
「野生の世界では、こんな些細なことが命取りになるのね・・・」
と、神妙な面持ちでつぶやきました。
さて、恐竜探しです。
ソウタは自分の飼う恐竜は自分で見つけると決意していました。トリケラトプスをサクラにゆずった手前、ここは何としても見つけたいところです。
「絶対に捕まえないと!」
再びつぶやくと、かたい決意を胸に、他のだれよりも一生懸命に探し始めました。
十分もたたないうちに、クラスの誰かが「見つけた!」と声をあげました。ソウタはびっくりして、
「ハヤマケラトプスがいなくなっちゃう!」
早くもあせり始めました。
トリケラトプスをゆずってもらったサクラは、
「大丈夫!きっと見つかるよ!」
と言って、いっしょに探してくれました。ケイタも自分のことなどすっかり忘れて、
「見つかりますように、見つかりますように・・・」
と、呪文をとなえるように、探しました。
しかし、いっこうに見つからず、時間ばかり過ぎていきました。最後はミサキも手伝って、四人で横一列になって、しらみつぶしに探しました。すると、ロープ沿いのところを探していたケイタが、時間ギリギリに、
「見つけた!」
と叫びました。ソウタは喜び勇んで飛んできましたが、この子はひどく痩せていて、動いていないようです。呼ばれた遠山先生は首の横に手を当てて、確認すると、
「残念ながら、この子は死んでいますね・・・」
と寂しそうに説明してくれました。
「どうやら、まだ親から餌をもらっていたあかちゃんだったのでしょうね。はぐれた後、食料の取り方がわからず、そのまま死んでしまったようです・・・まだ暖かいので、もう少し早ければ何とかなったかもしれませんが・・・」
とても悲しいことですが、悲しがっては時間がたってしまいます。ソウタたちは気を取り直して、懸命に探しました。しかしその後ネズミ一匹、見つかりませんでした。
ついに花山先生の集合がかかってしまいました。
「時間ですよ。みんな集まって二列にならんでください。」
その声を聞いて、ソウタは目もあてられないほど落ち込んでしまいました。しかし、遠山先生は言いました。
「今日見つけられなかったみなさんも安心してくださいね。恐竜センターの研究員さんたちが見つけたあかちゃんが観察基地にいますから、その子たちを、ぜひ育てあげてください。今日探したトリケラトプス、エドモントサウルス、ハヤマケラトプスは保護された子も多いので、飼いたい人は、恐竜探し完了後に申し出てくださいね。」
実のところ、迷った恐竜か恐竜探検でタイミング良く見つかることはそんなに多くはありません。そこで恐竜探検の四年生のために、研究員さんたちが定期的におこなっているコロニーの見回りのときに、迷子の恐竜を保護してくれているのです。研究員さんも日ごろの見回りで命の危機にある恐竜のあかちゃんを見つけたら、ほうってはおけないのです。
「観察基地でもらえるんだから、がっかりしないで。」
申し訳なさそうなサクラにそう言ってなぐさめてもらっていましたが、ソウタの失望は相当なものでした。
分かってはいてもあきらめきれないソウタは、サクラたちからだいぶ遅れて、重い足取りでみんなのところに戻っていました。すると突然、足元でガサッと音がしたかと思うと、何かが飛んできたのです。とっさに持ち前の運動神経でその何かつかんでみると、なんとハヤマケラトプスのあかちゃんが手の中あばれていたのです。踏まれそうになってびっくりしたのでしょうか、それともとびきり無鉄砲な性格なのでしょうか、いずれにしても元気なハヤマケラトプスのあかちゃんを捕まえることができたのです。
サクラはソウタが心配で、もう一度はげまそうと振り返りました。すると、なんとソウタが念願のハヤマケラトプスを持ってあぜんとしているではありませんか!
「それ!どうしたの⁈」
サクラは、ソウタ以上にびっくりして、思わす叫んでしまいました。
こうして、恐竜探しの初日は終わったのでした。
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