1-1その5

 きょうりゅう島こと羽山はやま島は、たいへん古い孤立した海洋島です。二億五千万年前に超大陸パンゲアが分裂した時、大陸のプレートの淵で何度も起きた大噴火によってできたと考えられており、巨大な海山の山頂に位置しています。

 南北に長いほぼ楕円形の形をしており、島の中央から東側は幾重にも重なった広大なカルデラになっています。周囲の外輪山は一番高い羽山岳を筆頭に千メートルをゆうに越え、カルデラの中を下界から隔離しています。

 外輪山の東側は山頂からその先の深い海溝まで一気に沈み込んでおり、小川の河口のほんのわずかな土地をのぞいて、平地は一切ありません。その昔、西洋の船が、この長く果てしない絶壁をみて、上陸を諦めたとの記録が残っているほどです。一方、西側は山すそが広がり、外輪山から流れ出たいくつもの川が、島をふちどるように南北の細長い平野を作っています。この羽山平野の北寄りには、海の玄関口である羽山港を中心とした羽山はやま市と、そのやや内陸にあり、古くは代官屋敷があった県庁所在地の本橋もとばし市があります。また、本橋もとばし市の南には空の玄関口の羽山はやま空港があります。さらに平野の南部には、昔は竜口たつくち港が遠洋漁業の中継地として栄え、現在では西太平洋のハブとも言える地の利活かして、高度な精密器械工場を誘致し、再び活気を取り戻した竜京りゅうけい市があります。

 ただ、広い島の割には大きな街はそれぐらいしかありません。平野のその他の場所はほとんど水田で、のどかな田園風景が広がっています。稲作以外の農業も盛んで、サトウキビ畑や牧場、最近では果樹園が増えてきておりトロピカルフルーツの栽培に力を入れていています。古くからバナナは栽培されており、最近ではパパイヤの仲間で島りんごと呼ばれるフルーツはこの島の特産品となっています。珍しいところでは日本で唯一のコーヒーの大規模農園もあります。漁業も最盛期よりは廃れているとは言え、いまでも竜口たつくち港は日本で有数の水揚量を誇っており、南洋マクロを獲りたてで生のまま食べられる港として有名です。

 平野は外輪山の南北にも多少回り込んでおり、島の北端には江戸時代に島を探検するためにやってきた侍が初めて上陸した岬があり、南端には比較的最近の噴火により流れ出た溶岩がところどころむき出しになっている荒れ地がひろがっています。

 外輪山の中は、島自体が台風の通り道にあるため降雨量も多く、外輪山を超えて流れ出る川がないため、とてもじめじめして沼や池がたくさんあります。そのため熱帯の植物が生い茂り、深く濃いジャングルを作り上げています。雨や植物の侵食によりいくらか平坦になっていますが、何回も起きた巨大な噴火による中央火口丘や崩壊した外輪山の名残、大量に吹き出した溶岩や陥没によって複雑な地形の盆地になっています。恐竜はこの外界から切り離された天然のシェルターで、密かに息づいていたのです。


 ケイタとソウタたちのバスは、本橋もとばしの学校から出発し、どんどん南東にすすみました。海に沿って南北には羽山はやま本橋もとばしから空港を経由して竜京りゅうけいまでは高速道路があるのですが、山へ向かう方向には一般道しかありません。バスはのんびりと、下道を進んでいきました。すると、まわりの景色は水田になり、徐々にサトウキビ畑になり、やがて果樹園が増え、温泉で賑わう観光地を過ぎると、ついに森になりました。最初は平らな道もだんだん上り坂が多くなっていきました。

 すると突然、森の真ん中に巨大なゲートがあらわれました。まわりの森とはまったく異質なゲートの先はトンネルになっており、トンネルを守るかのようにたくさんの警察官かいて物々しい雰囲気です。実は、これは恐竜のいるジャングルに恐竜泥棒などが勝手に入り込まないよう作られた検問なのです。検問では許可をもらった人しか通さず、行きも帰りも恐竜を勝手に連れ出さないように、しっかりと検査します。ケイタとソウタたちもバスを一度降りて整列し、花山先生が見せた許可証と人数が合っているか確認されました。運転手さんまで降りて検査されていました。

 警察官がバスの検査をしているとき、あまりにも厳重なゲートにソウタが思わす、

「なんか刑務所に入るみたいだな。」

とつぶやいてしましました。すると、すかさずユウトが

「お前、将来本物に入るから、練習になるだろ。」

と茶々をいれて、二人は小突きあいになってしまいました。すると、警察官はバスの検査を中断して、ソウタとユウトに近づいてきて話しかけました。

「静かにしてくれますか?」

警察官はやさしい声ではありましたが、真顔で有無を言わせない威圧感があり、二人はすっかりシュンとしてしまいました。


 検問を通過すると、いよいよ恐竜のいるジャングルです。が、ジャングルは高い山々に囲まれているため、長いトンネルをぬけなければなりません。

あまりに長いトンネルに、ミサキは

「違う世界にぬける穴みたいね。」

とつぶやきました。花山先生も、

「そうね。まさに恐竜の世界に行くタイムトンネルね。」

とSFチックなことを言っていました。

 この人間の世界と恐竜の世界をつなぐトンネルは、比較的最近に作られました。むかしのこどもたちは、恐竜探検のために山を登って、峠を抜けてジャングルに入ったそうです。たいへんな苦労をしてまで、きょうりゅう島のこどもたちは恐竜を守ろうとしていたのです。この島の人たちがいかに恐竜を大切にしていたかがうかがえます。

 トンネルから出ると、そこはジャングルです。ケイタとソウタたちは、ついに恐竜のいるジャングルまでやってきたのでした。

「薄暗いね。」

「なんか、少し怖いわ。」

みんなは口々にいいました。

「ブワォー。ブワォー。」

「キ、キ、キ、キ。」

遠くで、なんかよくわからない鳴き声も聞こえます。

ジャングルは広く、木々がうっそうとしげっています。長いあいだ恐竜が人間から見つからなかったのもうなずけます。

ソウタはジャングルの雰囲気を感じながら、ケイタに興奮気味に話しかけました。

「ジャングルの中は話に聞くよりずっと暗いんだね!」

「そうだね。しかもこれだけ広いと、まだ見つかってない恐竜もきっといるよね。」

「きっと、いるよね!」

二人とも、むしろワクワクが止まらない様子でした。

 そのジャングルの真ん中にはトンネルよりやや後にできた恐竜センターの観察基地があり、恐竜の生息地のより近くで、恐竜の生態を観察、研究しています。ここには世界中の研究者がやってくるので、多くの人が寝とまりできる立派な合宿所もそなわっています。ケイタやソウタたち島の四年生は、ここに泊まり込んで、迷子のあかちゃん恐竜をさがすのです。

 

 ジャングルの中にできた舗装された道をしばらく進むとついに観察基地が見えてきました。ケイタとソウタたちの一行は、観察基地に到着したのです。いよいよ恐竜探しの第一歩を踏み出したというわけです。

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