1-1その3
恐竜は水浴びも大好きです。皮膚が硬い恐竜たちは水をかけてデッキブラシ(もちろん、トイレ用のとは別のものですよ!)で体をこすってあげます。クラスメイトの女子たちも、デッキブラシとホースを手に、トリケラトプスの水浴びのお手伝いをしました。
飼育員のお姉さんが、背中をゴシゴシこすりながら、
「こうやって、こすってあげてね!」
と女子たちに手本を見せました。しかし、みんな大きな恐竜がちょっと怖いようで、トリケラトプスのお尻におっかなびっくりしながらデッキブラシの先をちょっとあて、恐竜が動くたびにキャーキャー言って逃げまどう始末でした。
「けっこう強くこすっても大丈夫よ。トリケラトプスの皮膚は硬いから弱いと気がついてくれないわよ。」
笑いながらみんなに声をかけました。
そこで、元気印のサクラはデッキブラシを握りなおし、一人、意を決してトリケラトプスに立ち向かいました。そして、
「えぃ!」
という掛け声と共にトリケラトプスのわき腹へデッキブラシをあてると、
「えい、えい!」
と、力を入れてこすってみました。
すると、トリケラトプスは「フォー」とあくびのような小さな声をあげて、尻尾を軽くふってドウ!と横倒しになりお腹を出しました。
「ほら、お腹もゴシゴシしてほしいみたいよ。みんなもやってみましょう!」
飼育員さんは、怖がっていた女子たちの背中をおして催促しました。
サクラの幼馴染のミサキも、
「うちのペロといっしょね。」
と言って、お腹をゴシゴシしだしました。ミサキはペロという名前の体が大きいのにやたら甘えん坊のゴールデンレトリバーを飼っています。ペロはミサキが大好きで、いつもお腹を出して、掻いてもらいたがっていました。ミサキは大きな恐竜に尻込みをしていましたが、ペロと同じしぐさをみて急に親近感が湧いたようでした。
学級委員をしているミクは、
「さあ、ほかの子達もゴシゴシしてあげましょう!」
とほかの女子たちに声をかけて、それぞれ気に入ったトリケラトプスの首や背中だけでなく、フリルやツノもゴシゴシしてあげました。
水をかけたり、ゴシゴシしたり、慣れてみると楽しい作業です。女子たちはきゃあきゃあ言いながらも楽しそうに、せっせとゴシゴシしてあげていました。そして、恐竜たちもとても気持ちよさそうに身をゆだねていました。
羽毛恐竜たちは、基本的に鳥とそんなに変わりません。ですので世話はそんなに難しくありません。むしろ、飛んで行かない分、楽かもしれません。特にストルティオミムスは虫や木の実が主食なので、餌も鳥の餌でも問題ありませんでした。
ミサキはストルティオミムスが一番気にいったようでした。
「やっぱり、私は小さめな恐竜の方が落ち着くわ。それに、この子たちは歯がないからいいの。肉食恐竜だと、嚙まれるのが怖いしね。」
ミサキはしみじみとサクラに語りました。
サクラは、どちらかというと水遊びをしたトリケラトプスみたいな大きめの恐竜が気に入っていたので、
「そうね。やっぱり大きいと威圧感というか、迫力があるわよね。でも、懐いちゃえばどうってことないけど。」
と理解を示しつつ、お茶を濁して、すぐに話題を変えることにしました。
「そういえば、その子、なんかミサキちゃんの後ろにずっと付いて来てるみたい。」
と、一羽のストルティオミムスの子どもを指差しました。
たしかに、遊びまわっている子どもの群れから離れて、ミサキのそばにポツンと座っている子がいました。
「おチビちゃんどうしたの?」
ミサキがその子に声をかけると、一緒にお世話をしていた、飼育員のお姉さんが
「この子ね、人工孵化で生まれたので、人間が親だと思っているみたいなのよ。」
と心配そうに教えてくれました。
「この子の親はどうなちゃったの?」
ミサキが聞くと、
「この子がたまごからかえる直前に死んでしまったの。生まれたのも遅くて、他のお母さんにも温めてもらえなかったのよ。」
と、悲しそうな顔をしました。
「野生に戻る時に困るから、あまり人に慣れ過ぎないようにしているのだけど。。。」
そこで、ミサキはサクラと協力して、最初はこの子をストルティオミムスの群れに戻そうとしました。
「みなさん!ちょっと集まってね!」
「ほら、おチビちゃんこっちにおいで!」
サクラが群れをまとめておいて、ミサキは先導して群れの方向に歩いて連れて行くのです。
「やった!無事仲間に入れたよ!」
おチビちゃんを無事群れに合流させたミサキとサクラは、そっと移動して檻の外から様子をうかがいました。
おチビちゃんは、最初は群れの中で毛づくろいしたりしていました。しかし、他の仲間に興味がないのかだんだん群れの端の方になんとなくたたずむだけになり、そして最後には、ミサキの方へやってきてしまいました。
「無理してでも、群れに戻すのが正しいのかしら?」
ミサキはサクラに相談しました。しかし、サクラも答えがわかるはずがありません。
「恐竜は群れで生きる動物だし、その方が長生きできるとは思うけど。。。」
と、一緒に悩んでしまいました。
結局、ミサキもかまい過ぎてはいけないと思いつつも、やはり特別に慕ってくれるおチビちゃんをむげにもできず、次の日から
「体が汚れたから拭きましょうね。」
とか、
「綱引きしたいの?こっち持ってあげるね!」
とか、お母さんのように細々お世話してしまいました。
そして最終日、すっかり情が移ってしまいミサキは
「おチビちゃん。ジャングルに戻っても、元気に生きるのよ。」
と、涙ながらにお別れしました。
みんな恐竜センターでは様々なことを体験して、それぞれ貴重な経験を積むことができました。
みんな学校の授業で一通り知識はありました。しかし、やっぱり実際に世話をしてみるとなかなか大変なことが、よく理解できたようでした。
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