第4話. 仲間
全てを知り尽くしている筈の王者が、未知なる強者の存在に触れた時、相手の力量を確かめようとするのは自然な行いだろう。
<それ>は本体の分身。偵察と言うよりは単なる暇潰し、であった。
とはいえ、余興には不必要に十分な力をも持ち合わせていた。
<それ>が今、自分を上回る速度で移動する者達を察知した。
(いとおかし……!)
<それ>は走るのを一旦止め、慎重に、しかし堂々と、畏怖を周囲に振り撒きながら興味の対象を変えたのであった。
(マズイ……ラディ達の方、向かってる。けど、ドシテ?)
ただ一人、アリの死骸だけが残るそこに立つ少女。
(もう他、逃げた後。だから? いや、チガウ)
少女は見る。
そこに残されていたもう一つ――大地が鋭く抉られた跡を。
(あれなら試したくなる、ワカル。ラディ、一体、何者? ワタシ、どうすれば……)
少女の本能は、<それ>を相手にするな、と告げていた。
だが自分の想定が外れ、危機が彼らに迫っている責任を、少女の理性が告げていた。
それは、一人で行動していた時には決して選択肢には無かったもの。
それでも今、少女は、自分でも信じられない行動を取る事に、驚きと喜びを感ぜずにいられなかったのだ。
(コレ、きっと……違いない!)
少女は、沼で彼らと会ってからの出来事を思い出していた。
「オメェはよぉ。もうオイラ達の“仲間”なんだぜ?」
「“仲間”?」
「あぁそうだ。“仲間”だからな、【No.002】なんて呼びたか無ぇ。ちゃんとした名前を決めようぜ! すぐにとは言わ無ぇが、よっく考えて自分で決めると良い」
「もしどーしても決めらんなかったら、アタシ達も一緒に考えたげるからさ」
少女にとって、その不思議なやり取りは理解の範疇を超えるものであった。ただどこか、今までにない安堵や温かな気持ちが胸に残るのを感じていたのだ。
(あれ、心地好かった。わたし、またあれ、皆と感じたい!)
巨木の裏に回るとラディ達は丁度、洞から這い出る所だった。
「みんな! わたし、ごめん。考え、甘かった……」
頭を下げた少女の耳には、意外な言葉が帰って来た。
「いや100%ラディのせいだろ? あんなバカみてーに速く突っ走りやがって。DDのコピーってか? 目立ち過ぎなんだよっ!」
「め、面目無ぇ……」
「ったく、次を考えなきゃ。
「あぁ、流石に皆を背負ってオイラが逃げるよりマシだと思うぜ? もうそこまで来てるしな。どんな奴か判りゃ対策も立てられるんだが……」
(あぁ……やっぱり。ここ、なぜか心地良い)
少女の胸に何かが湧いていた。
「アイツ、わたし知ってる。第Ⅱ層、統べる王、【九頭竜】の片割れ」
「“竜”だって?!」
「ふうー、しょうがないね。ならアタシが先頭切るわ。竜なんて想像の生きもんだ。正体は蛇だろきっと。蛇の道は蛇。みんなは後ろに下がってな」
ライリーのまん丸い瞳孔は、ネコの様に縦長になっていく。
「気ぃ付けろよっ!」
「なあに、精々楽しませて貰うぜー。だが……もしもの時はサポート頼む」
「応!」「はい!」「ワカッタ!」
(続く)
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