第3話. 第Ⅱ層

 そこはまるで、太古の地球ってやつを彷彿とさせるとこだった。


 空は何の明かりだろうか、まるで溶岩みたいに赤銅色が揺らめいている。

 眼前には見た事の無い木々が鬱蒼と生い茂り、森然たる原生林がオイラ達を出迎える。一歩中に踏み込めば、あちこちで恫喝と悲痛の咆哮が響き合い、まるでそれは、弱肉強食が織りなす交響曲シンフォニーみてぇだ。


 思わず獣の血が騒ぐ……そこはオイラ達にはっきりと、“自然の一員”ってぇのを自覚させる。


 フゥゥーー、興奮して来たぜ。


 ほんの少し進んだ先には、オイラ達よりデッケェ巨大なアリが何匹もくたばっていた。オイラ達はその光景に度肝を抜かれ、より一層警戒の念を高めたもんだが、一人だけ嬉しそうな顔してる奴が居る――あの少女だ。


(オイッ! あれを見ろ)


 小声で叫ぶライリーの指差す先に見えたのは、更に巨大な化け物が、を巨大アリの頭に突き刺して、美味そうに吸ってやがるんだ。


 何だよ、ありゃあ……。

 

 だのに後から続く巨大アリは、周囲の仲間の死体などお構いなしに、その化け物の腹から分泌されたを競って舐めに集まってくる。


 きっとあの蜜は、魅惑の猛毒なんだろうぜ。


 巨大アリはそいつを舐めて、夢見心地のままにアイツに吸われ死んでゆく。

 

 なんて事は無ぇ、まんま人間社会の縮図じゃ無ぇか。

 ゲーム依存、霊感商法、アホな首相――数え上げれば切りが無ぇ。


 人間の欲望が為せる仕業は、さもアイツらが自然界で特別みてぇに思わせがちだ。

 だが、なんてこたぁ無ぇ。自然にゃその手本がごまんとあるみてぇだぜ。


 すると、


「あの蜜、結構使える。取って来るか?」

 

 【No.002】と呼ばれていたその少女は、事も無げにそう言った。


 さっきまで巨大アリの死体の腹を掻っ捌き、何やら取り出していた見てぇだが、流石先駆者ってとこか。彼女のお陰でエニ沼も無事、攻略出来たわけだしな。


「だがあの化け物、如何にもヤバそうだぜ? オイラ達でサポート出来るか……」

「ワタシ一人、ダイジョブ! アイツ、食事中、隙だらけ。ワタシ、一回しかやられた事、ナイ」


 オイオイッ! その1回が命取りなんじゃ無ぇかっ!!

 なんでオメェは生きてんだ?!


 だが少女は怖がる様子も無く静かに近づき、痺れて動け無ぇアリの陰からそっと蜜を手で掬っていやがった。しかもすぐ側にはあの巨大アリが群がってるのに襲われる気配も無ぇ。


 そうか……だ!

 少女の体からアリと同じ匂いがする。


(蛇の道は蛇だぜ。アタシ達はここで静かに見守ろう)

 

 ライリーがオイラを察してか、そう囁いた。

 そん時だ。


 なんだ、コイツぁ……。


 全身でビビッと感じる、悪寒。

 

 それは、“血”の凝塊。

 幾つもの種類や数、時間までもがまるで層になっていやがる。


 或いは、“疾風迅雷”の化身。

 行く手を阻む者は無しとばかり、凄ぇ勢いで、草も枝も、あらゆる生き物をぶち抜いて一直線に来てやがる――しかもこっちに!


「あの巨木のうろ、逃げるっ!」


 それの存在に気付いたらしい少女が叫ぶ。

 彼女の指す先に、ひと際デケェ幹が見えた。


「判った!!」


 オイラはライリーとエルの手をしっかり握り締め、大地をしっかり掴む様にして、両脚にあらん限りの力を溜めた。


 “アレ”を試してみてぇーんでな。


ビキッビキッ 


「しっかり掴まってろよーっ! フンッッ!!」

「こ、こいつは……っ!」

「ひ、ひぇぇーー!!」



(続く)

   

 


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