第2話. No.002

「良いですか? 僕は泳ぎも得意だし、息継ぎ無しでも長く潜っていられます。お二人は、こと水中においては羽を捥がれた羽虫同然。さぁ特訓ですよ!」


 エルの野郎、さっきまでと違いまるで水を得た魚の様に生き生きしてやがる。

 

 問題は泳げ無ぇ事じゃ無ぇ、ライリーも分かっている筈だ。

 策を考えなきゃな。

 

 オイラ達は小一時間、エルの指導で水泳特訓をした。

 その間、オイラは敵が来無ぇか十分気を配っていたのは言うまでも無ぇ。

 お陰で沼は結構な広さがあったが、無事、端から端まで息継ぎしながら泳ぐ事は出来る様になった。


「お二人とも凄く上達が早いです! この調子なら潜水だって容易く出来る様になりますよ!」


「いや、エル。特訓はもう十分だぜ。なぁライリー?」

「あぁ、あの大木の蔓なんか使えるだろ。あと問題はやっぱ“空気”だなー」


 そん時だ。

 沼底から聞こえて来たのは、明確な意図を滲ませた不協和音。


「おいっ! 沼から離れろ。 何か来るぞっ!」


 オイラ達は近くの大木の裏に身を潜め、静かに沼を見張った。

 やがて水面には幾つもの波紋が広がり、そいつは姿を現わした。

 そいつは沼を這い上がり、辺りを伺ってっから頭の透明で、どこか変なヘルメットを外したんだ。その顔を見て驚いた。


 あ、あれは……まさかっ!!


「ミミっ!」


 気付いたらそう叫びオイラは飛び出していた。

 だがそいつはオイラを見て慌てて逃げだしたんだ。


「待ってくれ! ミミ、オイラだ! ラディだ! 逃げ無ぇでくれっ!」


 オイラは立ち止まり大声でそう叫んだ。

 するとそいつも恐る恐る振り返ってオイラの事をじっと見た。


「ミミ、忘れちまったのか? オイラだ。幼馴染のラディッツだ!」

「ワ、ワタシ、ミミ違う……ヒト違い」

「何だって?!」


 オイラはそいつを凝視した。

 綺麗なピンク色の髪に赤い瞳、あの顔はどう見たってミミだ。

 だが……言われてみれば、少し幼な過ぎるか。


 どういうこった?


 するとライリー達も姿を現わした。


「あーアタシらはアンタの敵じゃあ無い。聞きたい事があるんだ。アタシの名前はライリー。そしてこっちはエルだ。アンタの名は?」


「ワタシ、【No.002】。マスター、そう呼んでた」

「マスター?」


「そう。ある日マスター、ワタシ試すって置き去りした。ワタシ、やっとここまで1人、来た」


 オイラは聞いてられなかった。

 

 確かにコイツはミミじゃ無ぇんだろう。

 だが、その声が、その面影が、オイラの心を激しく揺さぶるんだ。


「オマエ、泣いてるか? ナゼ? ワタシ、泣かせる事、した?」

「ヒック……オメェがあんまり似てるんだ。オイラが探しているその人にな」

「たぶん、ワタシのマスター知ってるオマエ、探してるヒト。一緒、行こう」


 こうしてオイラ達は、正体不明のミミそっくりな、その少女と出会ったんだ。



(続く)

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