第13話. 矜持

 “急いては事を仕損じる”って言うけれど、

 うかうかしてられない状況っていうのもあるわけで、

 

 私は私を誤魔化しながら、ここまで上手ーく立ち居振舞ったつもりですが……。


 ――潮時ですかねー。


 今日も一人で伸び伸びと、とある研究に打ち込みます。

 あ、私、研究実験は好きですが、工作はあまり得意じゃありません。

 だからは、本来もっと試験して、完成度を確認する必要があるわけで。


 でも、“完璧”なんてのは永遠に、手に届かないものだから、

 それを目指して、使わずに、滅びゆくのは寂しいから、

 

 私というたった一つの存在が、これから歩む人類の、歴史の後先にならぬ事を祈りつつ――私はを内ポケットに忍ばせて、おやっさんの家に向かいました。


 電話の声が何と言うか、“あ! これは……!”って。

 ラディの言葉を借りるなら、きちゃいましてね。

 使わずに済めばまぁ、私のってやつなんでしょうが。  


 おやっさんの家、昔から何度も訪れています。

 いつもと変わらない、落ち着く居場所です。

 私にとって、実家同然と言っても良い。


「ごめんくださーい」

「あぁ八鋤か。書斎まで来てくれ」


 家にはおやっさんしか居ない様です。

 奥さんは買い物でしょうか。


トントン――ガチャリ


「あれ? おやっさん一人ですかー? ラディも居たみたいだけど」

「あぁ八鋤。ラディはもう出たよ。君に聞きたい事があるんだ」

 

 ラディは秘境の奥へ探検に行くと、この家の電話で連絡がありました。

 一目私に会ってから行けば良いのに……けど或いは。


 おやっさんが話を始めました。

 

「これは私の推測なんだが、どうか最後まで聞いて欲しい」


 最初は秘境探索に出かけるラディ達三人の共通点、手帳が意図的だった件、そして遺跡調査記録に書かれている古代人に関する文面にまで話は及びました。


 はは……お手上げだな。

 誤魔化していたつもりだったけど、この人にはちゃんとに見えていた訳だ。笑うしかない。


「相変わらずだな……君は“真実”を突き詰められるとそうやってだんまりを決め、笑っているんだ」


 これはもうしょうがないね。


 私は内ポケットに手を忍ばせました。


「そう……私は古代人の末裔――名は【ハディスク】」


バシュ!


 弾丸は、おやっさんの胸に見事命中しました。

 焼ける様な痛みと、生温かい血と、凍てつく体の痺れを感じている事でしょう。


「私を、殺すか……、八、すけ」

「ラディの事は私がしっかり見守ります。安心して眠って下さい、おやっさん」


 あぁ……しばらくはこの家にも、研究所にも居られなくなりますねー。

 とても寂しい。


 でもそうも言ってられません。

 私はこれから早急に向かわねばならぬ場所がある。


 ――そう、『キュステンジルの天空墓墳(?)』に。


 彼を撃った罪の重さを噛みしめながら、あの頂まで行くのです。

 それが私に出来るおやっさんへの、せめてもの償いですから。



(第1章. パンドラの箱 終わり)

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