第11話. 覚醒

「コイツは何だ? キンタマガエルよりデケェみたいだが?」


 オイ……そいつはマジで聞き様に拠っちゃマズいだろ。 

 案の定、エルはどこか下を向いて赤面している。


「うぅむ……シルエットだろうな。この文字が読めれば何か判るかもしれねぇが」


 その陰影シルエットの下には、小さく、見た事の無ぇ文字が書かれていた。

 

「うっ……なんだ? 急に頭が……」


 その文字を覗き込んだライリーは、頭を抱え苦悶とも驚愕ともとれる顔つきになっていた。


 どうしちまったんだ?


「なんだ……どうしたんだアタシ。こんな文字、見た事無いのに……判るんだ――“集え、我が子らよ。汝に標を授けん。視えぬを見定める火を灯せ。さすれば玉座に近づけよう”……ぐぅぅ、Uushaahーーッ!」


 そして急にライリーは体をくねらせ悶えだした。

 

「おい大丈夫かっ、ライリー!!」


 隣のエルも心配してライリーの背中を摩った、その時だ。

 その手を荒々しく振り払い、まるで今にもエルに飛び掛からんと恐ろしい形相で睨みつけている。エルは恐怖のあまり体が硬直してやがる!


「おいっ! 止めろライリーッ!!」


 オイラは慌ててエルを庇った。


 しっかし……なんつー眼だ。

 ライリーの両眼は、まるでネコ科を思わせる四白眼になっていた。

 いつもはまん丸で魅力さえ感じる程だってぇのに……。


 するとライリーは椅子にもたれ目を瞑り、深呼吸をし始めた。


「フゥゥーー、いや済まねー。やけに血が騒いでな……もう大丈夫だ。ところで、行くんだろ? コイツの所へ」


 ライリーは例の陰影シルエットを指差した。


「そうだな……もし、三A斑が生き延びているとしたら何か手掛かりがあるかもしれねぇしな」


「決まりだな」


「で、でも、まだエニナメ騒動から落ち着いてませんし、探索指示は出ないんじゃ……」


 心配気に呟くエルを傍目に、オイラとライリーは立ち上がった。


「ラディ、これは誰の為の探索だ?」

「あぁ、オイラ達半獣人の為の探索だ。大事な仲間を探す為の探索だ」

「じゃあ、人間様の許可なんて要らねーよな?」


 二人でニヤッとエルを見る。


「わ、分かりましたよー! 僕も行きます、連いてきます!」

「よしっ! それでこそアタシの一番弟子だ。実戦でばっちり鍛えてやっからな!」

「ひぇぇーーっ!」


 なんだかんだ良い師弟関係じゃねぇか。

 ま、二人きりだと油断ならねぇが……。


「じゃあいつ出発する?」

「あぁ、オイラこれから実家に寄るぜ。野暮用があんだ。出発は明日で良いか?」

「よし。じゃ、明日の日の出、ここを出発だ。握り飯を準備しとくよ」


 そういや指示以外で秘境を探索するの、初めてだな。

 

 オイラの心はやる気に満ち溢れていた。

 誰かに言われてやんなきゃならねー事と、自分でやろうって思ってる事、やる事自体はあんまり変わら無ぇかもだが、こんなにも気持ちの入りが違うもんだな。

 

 久々に良い感じだぜ。


 ミミ……ぜってぇ見つけ出してやっからな!



(続く)

 

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