第7話. うっかり八ちゃん

「こ、これが……の皮ですかーーっ!!」

「せめてキンガエルって言いやがれ!」


 ドルクのアイツら3人と獲物を分け合い、エニ沼探索を終え帰って来たオイラとライリー。

 2名も犠牲が出たってぇのに、科学者のお偉方は大興奮だ。

 初収穫のキンエニガエルは予想以上の神秘の塊だった見てぇだぜ。

 

 そんでこっそり頂戴してきた残り物の皮に大興奮してるのがこの、“うっかり八ちゃん”こと八鋤はちすけ科学技士だ。


 科学技士ってのは、学者や研究者の下で実験に従事する所謂サポーターでよ。

 そんな八ちゃんは、実は“俺”を生み出した張本人でもある。


 オイラ達半獣人は、その能力の有能性からランク付けされる。

 Aが一番上で、Cが最低ランクだ。

 

 そんで探索隊もA斑、B斑、C斑と編成され任務が組まれる。

 実はA斑ってぇのはAランクの半獣人で組まれたパーティーなんだ。


 因みにオイラはCランクだった。

 優れた聴覚と臭覚を持つミーアラビットの特質を獲得したが、それ以外はパッとしなかったんだ。


 適性はあってもどう適合するかは神のみぞ知るってこった。

 それこそ自然の神秘だよな。


 ところがオイラにゃ後から、なんの気紛れが戯れたんだかよー。

 第三次探索の任務終了から体に異変が生じたんだ。

 どうやら“突然変異”ってやつらしい。


 そいつが起きた原因を探ると、八ちゃんが何かやらかしたって結論に至った。

 何せC斑レベルの任務にそんな要素はあり得無ぇってなったらしい。


 そうだろうなぁ。

 だってあん時ゃ、強い敵が出た事無ぇ如何にも安全そうなお花畑で、“甘そうな物”を取って来いってすっげぇ楽ちんな任務(?)だったしな。


 だから、“うっかり八ちゃん”は科学技士なんだぜ。


「ありがとですよ、ラディ」


 そう言って、八ちゃんはササッとキンエニガエルの表皮を棚の空き瓶に入れ、何やら液体を注いで蓋をし、何食わぬ顔で標本棚にポンと置きやがった。

 

 バレれば即回収される貴重品なんだぜ?

 とぼけた奴なのか、よっぽど神経が図太いのか……。


 そんな八ちゃんだがどこか憎め無ぇとこがある。

 昔からオイラとは家族ぐるみの付き合いだ。特にオイラの父ちゃんとは、オイラが生まれる前からの長い知り合いらしい。


 父ちゃんは考古学者をやっていて、八ちゃんは遺跡の調査によく手伝いに行ったそうだ。

 

「あ、そうそう。このキンエニガエル。先期文明の遺跡の壁画にそれらしいのが描かれているんですよ、キンタマジャクシもね」


「あ、だから誰も見た事無ぇのにその存在は信じられていたって訳か」


「ふふふ……どうやら先期文明を築いた古代人とは、秘境からやって来た獣人かもって説が濃厚になってきましたねー」


「そんな説あったか?」

「えへへ。実は私が今、思いつきました!」

「……」


 “うっかり八ちゃん”は、“ちゃっかり八ちゃん”でもあるみてぇだぜ。


「そうそう、これ、貸しときます」


 八ちゃんが別れ際、手渡してくれたのは、随分と使い古された手帳だった。


「向こうで暇な時、見ておくと良いです。中々面白いと思いますよ」


 

(続く)

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