第6話. 観察者

 もし……“進化”が自然に組み込まれた歯車であるならば、現状はその帰結という訳だねぇ。


 だからその引き金を引いたのが、activeかpassiveかなーんて事は、単なるきっかけの誤差でしかない。つまるところ――、


 私はアクセルを踏んだだけで、その結果自体は遅かれ早かれ引き起こされる、進化の予定調和であったという事なのだよねぇ。


 それにしても……やーっとだ、やっと。

 あの“キンエニガエル”を倒す者達が現れたねぇ。


 この日をどれだけ首を長~くして待っていた事か……。


 あぁでもいけない、いけない。

 “巧遅は拙速に如かず”と言うけれど、私はそれで大失敗をやらかした。

 “ほんの軽く”が丁度良い。 


 ほんとこの“欲望”ってやつは、手綱を引くのが難しいねぇ。


 挑戦者7名、内5名が生存。

 しかもあの腹の中から生還する奴も居る……どうやら本人の能力に拠るものじゃあないみたいだけど、それでも驚くべき結果だねぇ。

 

 けれど、真に注目に値するのはあのウサギ。

 

 類まれなる身体能力はもちろんの事、を浴びて無事とはねぇ。


 少し調べてみたいが、今はこちらで忙しい。

 やはりこの秘境に絞って大当たりだよねぇ。

 この国には随分と優秀な科学者が居る。一度お会いしてみたいもんだねぇ。


 ふふ、それにしても……これからが楽しみだねぇ。


 あのキンエニガエルは只の沼の主じゃあ無い。

 あれはいわゆる、【門番獣ゲートキーパー】。

 これでの扉が開かれた。

 

 まさに第二の「パンドラの箱」が開かれたんだ。

 更なる試練が彼らを待ち受ける事だろうねぇ。

 

 さあて、そろそろ観察も、ここまでとするか。

 アイツは、勘も鋭そうだからねぇ。


 あぁでも、例えバレてもそれはそれで、面白味が増すかもねぇ!

 何せ奴は、が目的なんだから。

 ウフフフフ、ここに辿り着くのが楽しみだねぇ!


 では始めるとしよう。今日は何の実験にしようか……。

 

 そうだ、毒が良いねぇ。

 あのキンエニガエルに決定打のチャンスを与えたのも何らかの猛毒だよねぇ。 

 

 症状から判断するに、神経毒、血液毒、細胞毒、その何れもが含まれていた。

 流石の主も、内側から注入されては耐えきれなかったというわけだねぇ。

 

 まぁ、それも道理。

 アイツに飲まれて消化されずに済んだ奴なんて今まで居なかったからねぇ。


 出来れば、腹から出て来たあのサソリ女の毒も手に入れたいとこだけど……。

 まぁ何れ出会うだろうし、その時、直接抽出させて貰えば良いかねぇ。

 願わくばここ、第Ⅲ層植物群程度の毒性が欲しいとこだねぇ。


 あぁ、どうしても“欲しい欲しい”が過ぎてしまうねぇ!

 だって仕方無いだろう?

 彼らは価値という光を放ち、こうも輝いて見えるのだから。


 価値とは、積み重ねの結晶、それを欲する心の炎――まさに“欲望の嬰児”だ。

 ククク、それを生かすも殺すも欲望次第なのだけれど。

 

 さて、ではこちらも始めるとしよう。

 新たなる価値とは、過ぎたる欲望の果てに生じるものさ。

 

 それにこれは、からねぇ。




 試験体No.003‗『不死のミミ』クローン体を使った耐毒試験開始だねぇ。



(続く)

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