第3話. 合流

 その日届いた指令を見て、思わず身震いしたぜ。

 遂に来たんだ、あの場所に向かう日が。


 『エニ沼』だ。


 そこは、ミミたちが失踪した場所。


 エニ沼は隣国『ドルク共和国』からも同じくらいの距離にある。

 だからミミ達の消息は、ドルクの奴等が絡んでるって、きな臭ぇ話もある。

 

 今回はそのドルクの奴らと合同って話になったみてぇだ。

 こいつは、ただの探索だけじゃあ済みそうに無ぇな。



「アタシさぁ、前にここ来た事あんだけど、消息を絶つ要素、無いんだよなぁ」


 オイラ達はエニ沼の畔まで来ていた。


 このライリーはエニ沼探索の経験者で、周辺の生息環境について詳しい。

 今は、エニガエルの卵が孵化する時期だそうだ。

 だから沼には巨大で真っ黒なオタマジャクシがうじゃうじゃ居る。


「もし、が居たら捕まえましょ」

「オメェ……もちっとってもんは無ぇのかよ……」


 エニガエルは卵から成体まで、どの生育段階でもとてつもなく栄養価が高い。

 稀に金のオタマジャクシが生まれ、そいつは格別だと考えられている。

 だが、まだ捕まえた事は無ぇんだとさ。

 

 だろうな。


 ちょっと考えりゃ分かる。

 栄養価が高いって事は、それを捕食する生物もすこぶる多いってこった。

 中でも、“金のやつ”は格好の餌食ってわけだ。

 当然喰われる方だってそれなり防御手段を備えてるだろう。

 

 だが今回はひょっとすると……お目にかかれるかもしれねぇな。


 そん時だ。

 オイラは、僅かな足音と息遣いを察知した。

 警戒と用心、そして敵意を含んだって気配だ。


「あちらさんも来たようだぜ。こっちと、そっちだ」

「へぇ……二手に分かれてねぇ」


 ライリーがオイラ達の前にズイと歩み出る。

 訝しむ声音と裏腹に、顔はニヤリとしてやがる。


 大した玉だぜ……女だが。


 残りのメンバー二人がオイラを守る様にして立った。

 と、暗殺の香りを帯びた、空気をヒュンと伝う音。


「来るぜ、両方からだ! 毒に気を付けろっ!」

「任せときな!」


 ライリーは一方から放たれた矢をバトルアクスで見事叩き落としていた。

 

 凄ぇ反射神経だぜ。

 だがもう一方には間に合わ無ぇ!


 視覚じゃ確認出来無ぇが恐らく小さな針。

 相手の能力だろうな。そしてそれは十中八九“毒針”だ。


つうっ!」


 この音は……刺さって無ぇっ?


 どうやら針は弾かれたみたいだった。


 ……オイオイ、コイツの体どうなってんだ?


 ライリーは毒針の放たれた方へ猛突進していた。

 茂みから飛び出す人影、けどライリーは既に狙いを済ましている。


「うらあぁぁっっ!!」

「…っ!」


 ライリーの一撃を紙一重で躱した人影は、サソリ見てぇな尻尾を膨らませ毒針を向けた。

 カウンターとしてはピッタリだ、これじゃあ避けようが無ぇ!


「…………!」


 なんだって?!


 至近距離で射出されたその毒針は、やはりライリーの体には刺さらず弾かれ、

 逆にその尻尾を掴まれていた。


「終いだっ!」

「ライリーーっ! 待てっっ!!」


 ギロチンみてぇなその斧刃が下りるのを、オイラはあらん限りの声で制止した。  


 気になったんだ。

 あの時、アイツが呟いたその意味が。


 オイラは二人の下に駆け出した。



(続く)

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