☆第十一話 昼食セクシー☆


 今度は傘をさして、予約しているレストランへと向かう三人。

 公園からほど近い古風なレストランは、旧世紀の古民家を想わせる平屋造りで、公園から車道を挟んだ道沿いにあった。

 流石に古民家とは不釣り合いなビルが当たり前に隣立しているけれど、そこは流石に、芸術惑星ピカランジェルロの人々。

 敢えて、古民家と近代ビルのアンバランスさを、ミスマッチな芸術性へと昇華させている。

 レストランの周辺に植えられたシンプルな色合いの植物たちも、異質なる二種類の建造物を自然に溶け込ませている、大きな一役だ。

「素晴らしい建築様式ですね」

 自然大好きショタ王子も、外観や周囲の環境に感激している様子。

「このレストランは、自然の味わいを基本とする料理で高名なレストランです」

 と、料理大好きマコトの調べだ。

 正直を言えば、王族を接待するのに適しているというだけで、選んだワケではない。

 この惑星に来た事のないマコトとしては、ぜひとも味わってみたいレストランでもあったのだ。

 誰にも見つからない警護部隊に護られた三人が到着をすると、木造の扉を、男性の店員さんが開けてくれる。

「いらっしゃいませ」

 ここで、ショタ王子はハっと思い出す。

 マコトとユキは、春の暖かい雨に濡れて、ワンピースが透け透けになっていた筈。

 そのような恰好では、入店を断られてしまうのでは。

 更に、二人の肌を晒すに等しい行為でもある。

「あ、あの…っ!」

 店員さんへ、透け透けの事情を説明しようとしながら、左右のケモ耳美少女捜査官たちの透ける肌色を両手で隠そうとして見上げると、ワンピースは元の色味を取り戻し、透けてなどいなかった。

「…?」

 実はこのワンピースには、メカ好きユキが自作した急速乾燥アクセサリーが、留め付けられている。

 胸のアクセサリーへとタッチをすると、人体には無害で極短波な瞬間乾燥電波が発せられて、ワンピースの水分だけを超振動。

 熱を持つと同時に水分が瞬間蒸発をして、一分もかからずワンピースが乾くのである。

 今回の任務を引き受けた後、急ごしらえで制作したわりには、とても上手く出来た一品だ。

「さ、王子様。ご入店を」

「は、はい…?」

 そんなアクセサリーの説明を受けていないショタ王子は、愛らしい美顔を「?」で悩ませている。

(ユキってば…こういうイタズラ 好きだものね)

 とはいえ、相手は子供といえど異性ではある。

 マコトとしても、ヤキモチの一つを妬いても、おかしくない。

 筈なのに。

(…なんでなのかな…?)

 ユキにヤキモチを妬くどころか、納得というか、自分もこの王子様には、庇護欲にも似た感覚で接してしまう。

 もし王子様が二人の乳房に触れたとしても、なんだか許してしまうだろう。

(それが、ショタ王子様の御人柄…? あるいは、天然の魅力…?)

 どちらかは解らないけれど、もし女性慣れをした後に、兄王子のように女性との過度な接触にまで余裕を持てるようになったら。

(…普通の女性たちだったら、すぐにメロメロ だろうね)

 それはもう王族としての話なので、マコトたちが考えても仕方がない事だ。

 でも、出来ればアラン王子のような愉しみは知らないでいて欲しい。

 とか思ってしまうマコトであった。

 レストランの中も、広くて懐かしさを感じる木造様式だ。

 材質は近年の耐震構造材だけど、手触りや香りや吸水性なども、木材のヒノキと全く同じらしい。

「大変に、興味深い素材ですわ♪」

 と、メカヲタクなユキは、壁などをジっと注視してしまう。

 女性の接客係は、古式ゆかしい和装の着物姿。

「こちらに御座います」

 丁寧で美しい仕草に、和系国家の王族であるショタ王子も、その美しい所作に見惚れていた。

 案内をされたのは広い個室で、窓や縁側、庭園はあるけれど、室内は外から見えない造り。

 十畳ほどの畳部屋で、大きなテーブルは黒光りをして重厚で、上品な天然木で出来ている。

 王子様が、主賓席へと案内をされて座布団へ座ると、マコトたちも向かいの席へと案内をされた。

 小柄な体重を乗せた座布団に、少年王子は。

「わぁ…本物の座布団ですね…っ!」

 フカフカな座布団は、地球本星から取り寄せた、代々と続く布団屋さんの職人による手造りだとか。

 ショタ王子は、その手触りや柔らかさや美しい形に、また感動していた。

 整えられた日本庭園は、松の木や池、橋などもあり、池の中には美しい錦鯉も泳いでいる。

「うぅ…」

 一度でも席に着いたから、食事を終える前に立ち上がるのは失礼だと、ショタ王子は耐える。

 それは、池の錦鯉の存在を知って、一秒でも早く見たいという、知的好奇心との闘いであった。

 和食の料理が運ばれてくると、部屋は三人だけの空間となる。

 お刺身や野菜のお漬物や、煮つけや山菜の味噌汁など、質素だけど華やかで。彩りも香りも上品で美味しそう。

「あぁ…ここまで本格的な…っ!」

 ショタ王子は、嬉しそうに全ての品へと視線を泳がせた。

「それでは」

 王子の前に伏せられている焼き物の碗をマコトが手に取り、おひつからホカホカな炊き立てのご飯をよそう。

「わぁ…」

 フワフワと優しい湯気を立てる白いご飯は、艶々で粒が立っていて、甘くて美味しいと、見た目と香りで確信できた。

 マコトとユキのご飯もよそうと、三人でお食事。

「「「戴きます」」ですわ」

「あぁ…なんと素晴らしい香りでしょうか…やはり、本物のコシヒカリは人を惹きつけて止まないのですね…」

 と、手にした茶碗からの湯気だけで、再び感激している。

 最初の一口を戴こうとしたら、王子の箸が見当たらない。

「…?」

 しばし探すと王子の箸は、ユキの掌の中だった。

「あの…」

 箸を求める王子の掌から、ユキによって、更に碗まで奪われる。

 はたして、ユキは何をしようとしているのか。

(解った)

 ウサ耳パートナーは、もっと王子様を構いたいのだ。

 マコトの認識は、当然のように的中をする。

「王子様。お食事のお手伝いを させて頂きますわ♪」

 と言いながら、ユキは対面の席から、王子様の右隣へと着座。

「え…そ、そのような、お気遣いは…」

 薄ピンクなワンピースのムチムチ美少女に、隣へと座られて、王子は恥ずかしさに戸惑いつつも、丁寧にお断りをしようとする。

「ショタ王子様。王族たるもの、敵と味方の女性を見分けられる事も 必須で御座います♪」

「え…は、はい…」

 きっと王子様は、ウサ耳美少女が何を言っているのか、ハッキリとは理解できていないだろう。

 しかし、もはや信じて疑う必要のない二人の言う事なので、勉強の為にも鍛錬の為にも、従っていると思われる。

(まあ実際は ユキが楽しみ始めているのだけれど)

 ようするに。

「では ショタ王子、お口を…」

 いわゆる「あ~ん♡」がしたいのだ。

 箸に乗せられた一口サイズの暖かいご飯が、口の前へと、ソっと差し出される。

「あ、あの…」

 行為そのものが恥ずかしいだけではない。

 ご飯越しで、ワンピースにピッタリと包まれて形を完全に浮かせている巨乳が、視界を占拠しているのだ。

「王子様。このように傅かれる事にも 慣れて戴く…。それも、王族の鍛錬で御座います♪」

 もっともらしい事を言っているけれど、口調は楽しそうだ。

「ハっ–い、言われてみれば…!」

 どのようなアプローチにも動じないように女慣れをする事も、王族の務めである。

 と、真面目な王子様は、覚悟を決めた様子だ。

「そ、それでは…ぁ、ぁ~ん…」

 それでも恥ずかしいようで、目を閉じて口を開けて、忍耐のショタ王子。

 ニコニコしているユキから、ご飯を一口戴くと。

「んくんく…ぁあ…なんと、豊かで深い香り…!」

 巨乳の恥ずかしさよりも、白米の感動が上回ったらしい。

「………」

 ユキがお世話をしている様子に、ナゼか少し、羨ましさを感じたマコト。

 席を立つと、王子の左隣へと着座をする。

 自分の箸で、王子様のお皿からお刺身を一切れ、取り上げた。

 丸大豆の醤油へ少しだけ浸けると、王子様の口元へ。

「王子様、お刺身にございます」

 と、ユキのように「あ~ん♡」を求めた。

「え、あ、はぃ…ぁ、ぁ~ん…」

 お刺身越しの巨乳が恥ずかしいけれど、これも鍛錬であると、ショタ王子はお刺身を戴く。

「ぁむ…んんん…シットリと優しく舌に吸い付くようで…すぐに甘い脂が溶けて…なんと芳醇な海の香り…」

 一瞬で巨乳の恥ずかしさから逃れている王子様の反応に、なんだかヤキモチのような愛しいような、不思議な感覚。

 それは、ユキも同じだった。

 こうして、三人のセクシーな昼食が終えられていった。


                    ~第十一話 終わり~

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