☆第三話 ショタ王子様の問題☆
一瞬だけ停止していた思考が戻り、マコトが問う。
「それで…女性に慣れさせたい と…?」
失礼ですが、それほど重大な問題とは思えませんが。
という意思が含まれている事は、優王子にも伝わる。
「そう問われるのも、無理はありません。お二人もご存じの通り…我がサンサー・ラランドは、地球領界でも 地球本星より遠くに位置しております。そして近隣には、惑星サンザルーザが存在しております」
惑星サンザルーザは、地球人類とは別の知的生命体たちの惑星連合に所属している、単一民族の惑星である。
このサンサルーザが属している惑星連合は、地球連邦とは「決して良好とは言えない」程度の間柄である。
「しかもサンザルーザ人は、謀略に長ける種族でもあり…特に女性は、その床術…いわゆる ハニー・トラップの達人でもあります」
つまり、男性を誘惑してベッドで性的な快楽で篭絡し、自分たちの手駒にする女スパイがワンサカ。
という話だ。
「なるほど…」
マコトの納得に続いて、ユキが推察をする。
「つまり、もしアレンショターリュ王子様が、その床術などで狙われでもすれば…」
「それどころか、今のままでは 全裸の女スパイが目の前に現れでもしたら、それだけで容易に誘拐もされてしまうでしょう」
王族の護衛は常にいるし、務めとして護身術も身に着けている。
という話だけど、実際に半年ほど前、街中で裸女スパイの襲撃に遭い、アレンショターリュ王子様は恥ずかし過ぎて気絶したらしい。
スパイはその場で拘束されたけれど、国民の命を預かる王族としては、笑い話ではないのである。
「…たしかに。心中 お察しいたします」
二人は、美しい麗顔を憂いの輝きに曇らせた。
「ですので…せめて女性の裸に動じない。程度には、アレンを慣れさせてやって戴きたいのです。先ほどもお伝えしました通り、銀河に名高い第一級の特殊捜査官であり、かつ銀河でも頂点と謳われる美しいあなた方のご協力を戴ければ、アレンも容易く女性の裸に惑わされる事など、ありますまい」
「…ぅ…」
「恐れ入りますですわ♡」
正面から恥ずかしげもなく美しい真顔で「銀河一の美貌」とか褒められると、マコトは恥ずかしくて返す言葉が浮かばず、ユキは心の底から嬉しそうな微笑み返しだ。
女性の扱いに長けるアラン王子は、優しくも強い意思を隠さない微笑みの美顔で、最後の一押し。
「いかがでしょう。どうか、我々サンサー・ラランド国民の未来を、お助け戴きたい!」
真っ直ぐな瞳が輝いていて、やはり女性の扱いに慣れていると、マコトは心底から実感をさせられる。
現に二人とも、すでに使命感と言える熱い感情が、湧き始めてもいた。
「と、ところで…アレンショターリュ王子様は、今回のご依頼を ご存じなのでしょうか?」
女性慣れ以前に、アレンショターリュ王子様に於いては、誘拐のような目に遭うと恐怖心が植え付けられてしまいそうだ。
マコトの問いに、アラン王子は、ニコやかな返答をくれる。
「ご心配には及びません。お二人の了承を戴いた後に、アレンには通達する手筈です」
つまり、マコトたちの了解が織り込まれている。という事だ。
(まぁ、考えてみれば…表敬訪問のスケジュールなんて、出立から帰星まで 全ては計画表通りの筈だもの)
二人の懲罰免除はたまたまだろうけれど、アラン王子たちの出発が明日だったりと、どう考えてもマコトたちの帰還が想定の一つな計画でもあるのだろう。
是非も無い依頼に、同じような事を思案していたらしいユキが、応えた。
「ご承知いたしました。アレン王子様の護送任務、命に代えても、完遂させて頂きます」
(まあ、そうするしか ないよね)
マコトも納得するしかない。
「おぉ、これは なんとお礼を述べて良いのか! それでは、どうかよろしくお願いいたします」
と、爽やかな笑顔で握手を求められ、二人は立ち上がって握手を交わす。
美少女二人の小さくて柔らかい掌を手に取った優王子は、女性好きを隠さない、しかし心底から嬉しそうな笑顔を輝かせて、美人秘書たちへ命じる。
「アレンを」
「はい」
美しい所作で立ち上がる美人秘書は、その返答の一言だけで、教養の高さも伺わせた。
この二人に女性慣れを命じなかったのは、日頃から同じ王宮で過ごし、お互いにある程度の慣れがある事も、理由の一つなのだろう。
暫しして、巫女服のように肌を隠す衣装の女性が、静かに入室。
「アレンショターリュ王子様を お連れ致しました」
巫女服女性は、どうやらアレン王子の専属秘書らしい。
(秘書の衣装にも、主の好みが反映されている)
兄王子のボディー・ペイントな如き秘書たちに比べ、弟王子の秘書は、顔と掌以外の肌が全て隠れている。
「兄上、お呼びでしょうか?」
巫女秘書に続いて入室をしてきたのは、地球年齢で十歳としても背が低い、細身で童顔でサラサラ黒髪で目が大きくて全体がキラキラと輝いている、美しい少年王子だった。
身長的には、頭の天辺が、マコトたちの平らなお腹ほどの高さ。
目や鼻や口など、全てのパーツが愛らしく可愛い造形で、大きさも配置も、まるで天使。
細身で小さな白い身体に、王家男子の未成年衣装である神官風の水色な衣装を纏い、その無垢性までをも、存分に発揮していた。
(うわぁ…綺麗な子…)
「まあぁ…♡」
異性への恋愛感情を体験したことの無いマコトは、心中で素直に感動し、可愛い物が大好きなユキは、正直に溜息を零す。
「え…わあぁっ!」
大胆メカビキニなケモ耳美少女捜査官の二人に気づいた弟王子は、一瞬で顔も耳も真っ赤に上気させて、巫女秘書の後ろへと隠れてしまった。
十歳の男子といえば、女性に興味を持ち始めて当たり前の年頃だ。
二人のスタイルを見て、恥ずかしがったり、目が合うと真っ赤になって慌てて目を逸らす一般の少年たちは、二人もよく経験している。
しかし、悲鳴を上げて着衣女性の後ろに隠れて震える程にまで恥ずかしがる少年は、初めてだ。
そしてこの王子様の母星には、床術が得意な敵性国家が、存在している。
「…確かに、アラン王子様のご心配も、致し方ないですね」
つい口から溢れてしまったマコトの独り言を、聞き逃さなかったアラン王子もニッコリと微笑んで、納得をしている。
これはもう、二人にとってどれほど恥ずかしい依頼でも、それ以上に重大な使命と化していた。
兄王子は、怯える弟王子に、計画通りの急展開を伝える。
「アレン。明日からの帰星の行程だが…サンサー・ラランドで緊急の会談が設定されたと、ついさっき報告が入った。私たちは予定通りに出立をし、急ぎのワープにて明日中に帰星をする」
「…はぃ」
兄の言葉を、弟は未だ巫女秘書の後ろに隠れながら、ホワイトフロールの視線から隠れるように、伺っている。
「なのでアレンよ。お前は、ここに居られるホワイトフロールのお二人の護衛にて、当初の予定通りの帰星をするように」
「ぇ…えええ…っ!?」
大胆メカビキニのグラマー美少女二人と一緒に、四日間の宇宙旅行。
女性への免疫が皆無と言える弟王子にとっては、まるで肉食獣の檻に放り込まれる雛鳥の如しだろう。
兄の言葉が聞き間違いであれと祈るような眼差しで、縋るような涙目も、また庇護欲を刺激するくらい、愛らしい。
(…これでは、女スパイにとっても良いオモチャ だろうね)
事件の記録から伺える女スパイたちを思い起こすと、アレン王子への同情とともに、女性慣れはもはや必然だと、マコトたちも納得をした。
二人をチラ…と見て、その露出過多な姿に一瞬で強く目を閉じてまた隠れてしまった弟王子は、必死になって兄へと懇願。
「そ、それでは兄上っ、ぼ–わ私もっ、兄上たちとご一緒にっ–」
噛んで詰まる愛らしい少年王子も、また庇護欲を刺激してくる。
「お前は王族の務めとして、途中の惑星にて水生生物の研究という、大切な職務があるだろう? 王族としての社会貢献をないがしろにする事は、この私も、父も母も、許さないだろう。そして誰より、国民に対して申し訳がたたない…!」
「は…はぃ…」
国民の為の職務だと言われてしまえば、もう反抗できない弟王子だ。
「以上だ。アレンよ、後は私が話を纏めておくので、下がって良い」
「…はい…」
巫女秘書に抱かれるように護られながら、弟王子は退室をする。
「アレンはあの様子ですので…私どもの、お二人への期待がどれ程の高さなのか、ご理解頂けると思います」
「たしかに」
「お任せ下さいませ」
美しい中性的な王子様の如きマコトは凛々しく、無垢で愛らしいお姫様のようなユキは自信満々で、使命感に輝いてた。
明日の帰星出発の際に、マコトたちも、弟王子を乗せて出発する手筈である。
大使館から本部へと戻る二人を、アラン王子が直々に、お見送りをしてくれる。
「それでは、アレンショターリュ王子様の護送の任務、確かにお引き受けいたしました」
と、真面目に上申をするマコトたちへ、優王子は笑顔で告げる。
「まあ、そうかしこまらず。アレンの事は、国民の女性たちのように『ショタ王子』とでも 呼んでやって下さい」
「「ショタ王子…」ですの…」
言い得て妙だ。
「女性慣れに関しましても、その方法は全て、お二人にお任せいたします。もし三人で、めくるめく初体験という流れになっても、我々としてはむしろ大歓迎ですが。ははは」
「「ショタ王子様の身綺麗は保証いたします」ですわ」
女性慣れをしているアラン王子の、ジョークとも本気とも知れないお言葉に、マコトは真面目に、ユキは柔らかい笑顔を返していた。
~第三話 終わり~
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