☆第二話 優王子様の憂鬱☆
翌日の十四時。
昨夜の間に、受け取った資料へ目を通しているマコトとユキは、指示通り、惑星サンサー・ラランドの大使館へと出向いていた。
惑星国家の王族との対面という非礼の許されない場でもあるのに、大使館から指定されたドレスコードは、いつもの露出過多なメカビキニ。
「なんて言うのかな…これで本当に 失礼にあたらないのかな」
「大使館からの要請なのですから。心配ご無用ですわ」
中性的な美しい王子様フェイスを、やや訝し気に染めるマコトに比して、ビークルを操縦するユキは、無垢なお姫様フェイスをワクワク顔で輝かせている。
「ユキ、なんだか楽しそうだけれど?」
これから面会をするアランプラマリージュ第一王子の写真も、当然だけど、データで確認済みな二人。
この兄王子様は、写真で見るだけでも優しそうな笑顔が輝いていて、普通に女性の人気を集めているらしい。
しかも実質、母星の行政を取り仕切っている超ヤリ手の優秀な御仁であり、かの王族の務めである研究課題でも、植物分野に於いて大変な実績を残していた。
植物学に精通しているだけでなく、既存の草花から新しい治療薬の元となる物質の合成に成功するなど、母星に対する貢献だけでなく、更に地球本星の大学で博士号を取得していたりもする。
美青年で優しそうで政治的にも植物学的にも優れていて、しかも王族。
たしかに、世の女性たちが興味津々でも、当然だろう。
なので、マコトは。
もしや、アランプラマリージュ王子との面会が、楽しみなのだろうか。
と、パートナーの笑顔を勘ぐってしまったりしていた。
そんなマコトの感情を、ユキは当たり前に気づいている。
「あら、マコトったら。王子様にヤキモチなんて…♪」
と、嬉しそうだ。
「別に…」
とか言葉に詰まるマコトは、正直にも、ネコ耳がピクピクと不満を表明している。
「くすくす…私は、とても楽しみなお約束を、取り付けられそうなのですわ♪」
「?」
この時はまだ、マコトにはユキの言葉の意味が、よくわからなかった。
大使館の正面門に到着をすると、入り口横の詰め所から、警備員が近づいてくる。
「地球連邦 対外特別捜査部 第二捜査課所属の ハマコトギク・サカザキです」
「同じく、ユキヤナギ・ミドリカワ・ライゼンです」
和装な警備係に認識票を呈示すると、連絡を受けて門が開かれ、二人のビークルが招かれた。
裏の駐車スペースへとビークルを駐めると、大使館員が出迎えにきてくれた。
「ユニット・ホワイトフロール様でございますね。お待ちしておりました」
着物姿の如き和装は、サンサー・ラランド大使館の、女性大使館員さんの正装らしい。
二人よりも年上だけど、若い女性の大使館員さんは、マコトとユキの大胆メカビキニ姿を見ても、特に驚く様子もない。
(本当に、このスタイルで招かれたんだね)
(ですわ)
ガンベルトは装着していないものの、谷間も下乳も横乳もはみ出していて、お尻に至っては紐Tでヒップ肌も剥き出し。
という、大使館から石持て追われても文句の言えない恰好で、二人は広い館内の廊下を和服女性に続いて、しずしずと進んだ。
大きな扉の前で。女性大使館員さんが挨拶をする。
「ホワイトフロール様が、お見えになりました」
『通してくれたまえ』
スピーカーから、よく通った優しい男性の声が聞こえた。
(アランプラマリージュ王子の声)
録音いがいで初めて聞いたけれど、なんというか、こちらの警戒心を緩ませるような、安心感のあるトーンだ。
扉が開かれて、室内へと招き入れられる。
やや広い面会室は、質素な印象。
大きな窓や広い木製テーブルと本革のソファーと、観葉植物。
それらが全て、落ち着いた印象だった。
テーブルの向かいには、質素ながら清潔感に溢れる上品な和装のアランプラマリージュ王子様が、綺麗な姿勢で直立したまま、出迎えてくれている。
「わざわざお出向き戴いてしまい、感謝の念に堪えません。私が、惑星サンサー・ラランドの外交長官であり第一王子の、アランプラマリージュ・ピースマーオーダーです」
と自己紹介をして、ニコ…と微笑むその美顔は、普通の女性であれば、それだけで目がハートになってしまうだろう。
マコトもユキも、一瞬とはいえ、視線を奪われてしまっていた。
「お目にかかれて、光栄に御座います。アランプラマリージュ皇太子。私は、地球連邦 対外特別捜査部 第二捜査課所属 ユキヤナギ・ミドリカワ・ライゼンと申します」
と、優しく丁寧な自己紹介で、美しい礼を献上するユキ。
「同じく、ハマコトギク・サカザキと申します。お目にかかれて 光栄にございます」
と、マコトもユキを倣って、綺麗な礼。
愛らしいお姫様と、中性的な王子様。
美しいケモ耳美少女捜査官たちに、王子はまた、屈託のない笑顔で返す。
「こちらこそ、お二人にお目にかかれて光栄です。私の事は、どうぞアランと お呼びください」
着席を促されながら、マコトはこの美王子が、外見に似合わない別なる一面を全く隠さない事実にも、驚かされていた。
「「失礼いたします」」
アラン王子が命じなくとも、扉を開けて入室してきた二人の美人秘書が、挨拶をくれてから紅茶を淹れる。
美秘書たちは、一人はイヌ耳の銀髪ロングヘアな褐色のスレンダー美人で、もう一人は透き通るような肌の水生生物っぽい耳ヒレを隠さない、セミショートの起伏ボディー。
そしてしなやかな肌に纏われている衣装は、素肌に張り付くようなピッタリフィットの、超極薄ロングドレス。
肌とドレスとの段差や食い込みが無く、肌だけを見ると、ボディーペイントの如し。
マコトの目には。
(私設秘書で、王子様のベッドのお相手で…とても、身体が鍛えられている)
筋肉はしなやかだけど、肌艶から、その戦闘能力が解読できる。
という見解を密かに伝えると、ユキは。
(はあぁ…あの衣装 どのような素材なのでしょう…♪)
と、瞳を潤ませて観察をしていた。
ああ、ユキの言っていた楽しみって、この事だったんだ。
と、オシャレに明るいパートナーの楽しみを理解し、胸のモヤモヤがアッサリと解消をしたマコトであった。
三人分の紅茶が出されると、美人秘書たちは美しくも怪しく、王子の両隣りへと、大きなヒップを降ろす。
王子に勧められて、マコトとユキが紅茶を戴くと、アランプラマリージュ王子も、美味しい紅茶を一口。
「さて…お二人が大使館へいらして下さったという事は…私のお願いは、了解されていると考えて、宜しいのですか?」
「はい」
と、マコトが注意深く応える。
「ですが、失礼ながら。ご依頼の具体的な内容は、こちらの大使館で伺うようにも、命じられております」
「それは、そうでしょう」
アラン王子はもう一口、紅茶を戴くと、依頼の内容を話し始めた。
「実は、今回の地球訪問には、最初から もう一つの目的がありまして」
「それが、アレンショターリュ第二王子様の護送の件…なのですね」
「はい」
ユキの言葉に、アラン王子はニッコリと微笑む。
「帰星の際ですが…五日ほどをかけて、アレンの研究の為、別の惑星へ立ち寄る事になっています」
「「はい」」
そのあたりは、デジタル・ペーパーにかかれていたスケジュールだ。
「そして明日、我々は母星で急ぎの会議が設定されて、いち早く帰星する事となります。その際 お二人には、アレンの護送と共に予定されている各惑星へと立ち寄り、アレンをサンサー・ラランドまで送り届けて戴きながら、女慣れさせてやって戴きたいのです」
(きた)
大真面目な美顔で女慣れとか仰っているけれど、これは依頼任務の内容だ。
しかし、護衛も女性慣れも、目の前の女性秘書が適任だと感じる。
というマコトの考察を、アラン王子は予測出来ているらしい。
「いやぁ、この二人は 私の私設秘書ですので」
輝くほど爽やかな笑顔で、女性の占有宣言だ。
「それに、銀河に噂されるお二人の活躍や美貌に関しましても、私はとても 敬意を感じております故」
実力も美しさも認めている。
と、正面から臆することなく言われると、正直、嬉しくなってしまう二人だ。
犯罪者たちには「ヘル・ビッチーズ」だの「デビル・ガールズ」だのと散々な仇名で呼ばれているうえ、クロスマン主任には失態を叱られたばかりの二人である。
(…なるほど。危険な王子様だね)
異性に恋心を抱いた経験の無い二人ですら、嬉しくてケモ耳が正直にピクピクしてしまっていた。
「まあ、女性慣れといっても、ベッドでのマナーを教えてやってくれ という事では、ありません」
「「はい」」
異性との性体験どころか、デートも手つなぎすらも皆無なマコトとユキは、正直ホっとした。
「ベッドどころか…お恥ずかしい話、それ以前の問題でして…」
「「?」」
優王子は、輝く程に整った大真面目な美顔で、告げて来た。
「アレンは女性が苦手…というワケではないのですが、少し…いえ大いに問題がある。という程度に、恥ずかしがりなのです。たとえば、お二人の麗しいと確信を以て想像出来うる全裸姿ではなく、夜も眠れなくなる程にその悩ましくも大胆な正式スーツ姿を見ただけで、赤面して逃げ出して部屋へ籠って鍵をかけて三日ほど布団にくるまってしまう程…と、自信を持ってお伝えできます!」
「「………」」
美しい年上王子様が、全裸姿を想像とか言い出した。
~第二話 終わり~
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