☆第一話 名誉挽回のチャンス!☆


 地球本星へと帰還をした白鳥は、ステーションでの応答を終えた後、そのまま大気圏へと突入。

 太平洋上に建造された人工大陸「ネクスト・アトランティス」の宇宙港へと着陸をして、艶めく真珠色の翼を休めた。

 専用宇宙船も、核惑星での大気圏突入も、特殊捜査官の特権である。

 下船をして、宇宙港から捜査本部のビルへとエアロ・エレカで向かうマコトとユキの、美しい表情は憂鬱で彩られている。

「…報告、だよね」

「ですわ…ぷるる…っ!」

 美しい男性上司の、静かにして恐ろしいお説教の空気感を思い出すと、ユキは震えて、ビークルの操縦も失敗しそうだった。

 やがて、二人の体感時間よりも百倍以上と速く時間が過ぎるような感じで、エアロ・エレカは超高層な本部ビルへと到着。

 地下の駐車場へとビークルを駐めて、本部ビルの高速エレベーターへと、なんだかノロノロと搭乗をする。

 捜査本部の階層まで数秒で到着してしまうと、二人の美しい憂いの表情が、更に怯えの薄マスクを被らされたの如き憂鬱美貌だ。

 エレベーターを降りると、すれ違う先輩捜査官たちや同期たちも、二人の今回の活躍を知っているようで、苦笑いで慰めをくれる。

「よ。大活躍だったな」

「まぁ、いつも通りだよね。二人とも」

「そう…ですね…」

「ほほほ…ふぅ…」

 作り笑いしか、返せない。

 クロスマン主任の待つ主任室へと到着をすると、二人は少しでも自分の気持ちを落ち着かせようと、深呼吸をした。

「「すうぅ…」」

 胸を張って大きく息を吸うと、二人並んで四つの巨乳が、更に大きく斜め上へと突き出され、白い乳肌にメカビキニを食い込ませる。

「「…はあぁ…」」

 大きく静かに息を吐き出すと、平らなお腹がしなやかに形を変えて、大きなお尻も無意識に少しだけ、後ろへと突き出されたり。

「それじゃ…」

「えぇ…」

 流石に、今回の失態は懲罰も覚悟しなければならない。

 二人は決したくない意を決して、主任室へと報告の挨拶。

「ハマコトギク・サカザキ、帰還いたしました!」

「ユキヤナギ・ミドリカワ・ライゼン、帰還いたしました!」

『入りたまえ』

 遮光扉でもありモニターでもありカメラでもありスピーカーでもあるシステム・ドアから、クロスマン主任の、落ち着いて穏やかな命令が聞こえた。

「し「失礼いたします!」」

 マコトよりも怯えるユキが、珍しく噛んだ。

 扉が開かれ、二人は背筋を伸ばして美しく姿勢を正し、スタスタと入室をする。

 デスクにはクロスマン主任が、いつものようにオーダーメイドの特殊な黒いスーツを纏って椅子へ優雅に腰をかけ、様々な書類に目を通している。

 緊張する二人がデスクの前に直立をすると、主任は柔らかい物腰で、二人を注視した。

「惑星ニスト総合警察本部との合同捜査、ご苦労だったね」

「「はいっ!」」

 大きな美声で返答をするマコトとユキは、叱られるであろう緊張感で、今にも膝が脱力しそうだ。

 強気なマコトは、黒いネコ耳をピンと立てているけれど、耳の先まで微細に震え、しなやかな尻尾もピンとしたままやはり震えていて、緊張感を正直に示している。

 ユキに至っては、白いウサ耳もペコんと折れて、フワフワな丸い尻尾もピクピクと震えていた。

「さて…報告は上がってきているよ」

「「はい…」」

 やはり、言い訳など出来ないだろう。

「密売組織の地上本部を壊滅させ、宇宙へと逃走をした幹部たちを追跡、発見。戦闘状態となり、正当防衛にてこれを撃破。組織の統括者たちは宇宙船の爆発にて完全消滅。共に逃走を試みた構成員たちの小型宇宙船もろとも、一人残らず宇宙の塵…。いつも通り、実に勇ましい活躍だね」

「「…は…」」

 静かで抑揚も無く正確な認識を口にしながら、美中年の主任がチェアの背もたれに背中を預けて、腿部の上で左右の指を組みながら天を仰ぐ。

 実に画になる男性の憂いだけど、マコトとユキにとっては、怒りを表す恐ろしい姿勢でしかない。

「この合同捜査を命じる際、私はキミたちに『今度、失態を演じたら懲罰を与える』と、伝えていたね?」

「「…はぃ…」」

 まさに、返す言葉も無いとはこの事だ。

 マコトは中性的な美しい王子様フェイスを、ユキはマコトの背後へ隠れながら穏やかで愛らしいお姫様フェイスを、共に俯かせて、冷や汗だ。

「何か、申し開きは?」

 言い訳のチャンスのようだけれど、すでに正当防衛を認めてくださったうえでの、懲罰である。

「「…ぃぇ…」」

 観念するしかない事態に、マコトのネコ耳ネコ尻尾も、シュンとなった。

 二人の覚悟に、クロスマン主任は音も立てずに立ち上がると、デスクの上へと静かに手を着く。

「では…伝えてた通り、二人には懲罰を与える」

「「ひぃ…!」」

 どんな苦しい懲罰だろうか。

 マコトであれば、一週間ずっと同じメニューの食事か。

 ユキであれば、白鳥の改造パーツを目の前で没収か。

 コクりと息をのむ二人。

 そして主任は。

「…とするべき処であるが。キミたちに、名誉挽回の機会を与えようと思う」

「「…え…っ!?」」

 二人は耳を疑った。

 鬼からの恩赦。

 これから命じられるであろう任務をこなせば、懲罰は無しにしてくれる。

 というお話だ。

「あの、それは…」

「ほ、本当…なのですか?」

 思わず問い正してしまう。

 静かに頷く主任の言葉が嘘でない事は、美しい表情が全く変わらないものの怒りの空気が消滅している様子から、解った。

「キミたちは、惑星国家『サンサー・ラランド』を知っているだろうね?」

 怒りを沈めたクロスマン主任は、穏やかで優しく親しみやすい上官である。

 二人のケモ耳にもケモ尻尾にも、もはや恐れなど微塵も無く、信頼する上官への敬意で、元気に健気にピンとしていた。

「はい。地球連合所属の一国家で、移民開拓の惑星としては、三百年ほど昔の古い国家と、記憶しております」

「その通りだ」

 マコトの返答に、主任も満足そうだ。

「古いしきたりと伝統が続いている王室国家で、惑星の行政を司る王室『ピースマーオーダー家』が、代々にわたり受け継がれている、平和国家ですわ」

「うむ、その通りだ」

 ユキの返答にも、主任は満足そうである。

「そのピースマーオーダー王家の第一王子『アランブラマリージュ』皇太子と、第二王子である『アレンショターリュ』皇太子が、地球連邦へ謁見に訪れている」

「「はい」」

 地球連合国家の主星である地球本星には、数多ある所属国家のお偉方が、毎日複数組と訪れている。

 なので、地球に様々な惑星国家のお偉いさん方が来訪していること自体、二人にとっても珍しい話ではないのだ。

「サンサー・ラランドの謁見一行は、本日の会談を終えて 明後日の昼過ぎに、惑星サンサー・ラランドへと、帰星の出立をされる」

「「はい」」

「二人には、その際のちょっとした特別任務に、就いて貰いたい」

「「特別任務…?」ですの…?」

 護衛だろうか。

「王室の護衛部隊が送迎のガードをするので、護衛任務ではない。二人には別ルートで、王室の弟君である第二王子、アレンショターリュ皇太子を、惑星サンサー・ラランドまで護送して欲しい。という、アランプラマリージュ第一王子の、たってのご要望だ」

「王子様の」

「直接のご依頼…ですの?」

「その通りだ」

 クロスマン主任は、必要な情報が記録されているデジタル・ペーパーを、二人に手渡す。

 ペーパーを受け取りながら、マコトは考える。

「王子様の護送…。何か、アレンショターリュ王子の命を狙う…不穏な組織の存在、なのですか…?」

 美しく鋭い視線を更に引き締めるネコ耳捜査官と、愛らしいタレ目を引き締めるウサ耳捜査官。

 国家公務員としてのカンが疼いた二人に対して、クロスマン主任の返答は。

「それは無いね」

 と涼しい美顔。

「アランプラマリージュ王子からのご依頼は…解りやすく伝えれば、地球本星での年齢に換算すると現在十歳であられるアレンショターリュ王子を、女慣れさせて欲しい。という内容だ」

「「…は…?」」

 二人は呆気にとられた。


                    ~第一話 終わり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る