SF ねこうさ ゆりボイン 6

八乃前 陣

☆プロローグ 大失態☆


 銀河連合に一席を置く、地球惑星連合。

 そんな、数多の惑星国家を従える地球本星の行政機関「地球連邦」に所属する捜査官たちには、様々な任務があった。

 女性の特殊捜査官、ユニット・ネーム「ホワイトフロール」である、ネコ耳のマコトとウサ耳のユキも、地球連邦に所属する領惑星からの要請を受けて、捜査協力へ向かう事が、多々あったりする。

 現在も、惑星国家ニストからの捜査協力依頼により、ニストの捜査本部と合同の、密輸犯罪組織壊滅作戦に参加をしていた。

「このあたり だよね?」

 惑星ニストにおける密輸組織の本部基地を壊滅させて、地球本星との裏ルートも潰し、今や宇宙へと逃れた幹部たちを捜索中。

 艶めく真珠色の白鳥を模した専用の中型航宙船「ホワイト・フロール号」のブリッジで、黒く艶やかなネコ耳をピンと立てるマコトが、中性的でボーイッシュな王子様フェイスを美しく引き締めながら、索敵レーダーや各種センサーを注視している。

「ですわ。逃亡をしたロケットの出力から考えますに、それほどの遠距離まで逃亡をできているとは、思えませんですもの」

 漆黒の宇宙で、艶めく白鳥を優雅に舞わせる純白ウサ耳のユキは、優しいタレ目と上品な雰囲気で愛らしいお姫様のような笑顔のまま、地球連邦随一の操船技術を軽やかに発揮しながら、大小の岩塊が浮遊するアステロイドベルトをスイスイと航行させていた。

 伝説の鬼捜査官をそれぞれの祖父に持つ二人は、その才能と人並外れた努力によって、就学を飛び級し、十七才という若さで特殊捜査官へと就任。

 その美しさだけでなく、恵まれた巨乳やくびれたウエスト、大きなヒップと、見事な全身バランスも相まって、銀河ニュースでは注目の的である。

 更に、地球連邦のイメージ向上を目的としたビジュアル広報としての役目もあり、与えられたスーツは、銀色のメカビキニという、とても大胆な形状。

 大きなバストを包むトップはギリギリの露出具合で、柔らかくて深い谷間も、下側もサイドも、背中までも、大きく肌を隠さない。

 ウエストは、どの角度から見ても完全露出で、縦長の臍や細い背中、括れた脇腹も隠されていない。

 ボトムは、ガンベルトからのみ繋がれたと見間違えられる程の、極細ローライズTフロント&丸いヒップも完全露出な極細Tバックというデザインだ。

 マコトの艶々な黒いネコ尻尾と、ユキの白いふわふわなウサ尻尾が、ガンベルト後部の穴から露出していて、Tバックはその穴よりもかなり細かったりする。

 手足は、メカのグローブとメカのブーツで飾られていて、イヤリングなどのアクセサリーが、魅惑的で露出の高い全身を、質素ながら煌めきで飾ってもいた。

「でも あれだね。この辺り、不自然に岩とか多いし」

「ええ。まるで『このあたりに隠れてます』とでも 言いたげですわ」

 などと、捜索しながら隙の無いオシャベリをしていたら、高性能センサーによる一瞬の反応を、マコトが拾う。

「ユキ、いたよ。北天、二時の方向」

「あの大きな岩の、お隣の岩陰ですわね」

 専用航宙船であるこの白鳥は、通常の専用航宙船とは、その性能が段違いである。

 それは、重度のメカヲタクであるユキが標準装備の装置をイジり倒してリミット解除や高性能化という違法改造ギリギリのラインまで底上げしているだけでなく、自分で見つけた装置などを好き勝手に取り付けている事が、全ての要因だ。

 なので、最高速度は地球連邦軍の高速駆逐艦並みだったり、旋回能力は高速殲滅艦を超えていたりと、実はかなり武闘派な白鳥である。

 追跡目標を見付けた航宙船が、優雅に旋回をして目標へと向かう。

「それじゃあ いつもの警告を…あ、撃ってきた」

 マコトが船外通信マイクに手を掛けたと同時に、隠れている場所がバレたと察知した逃亡宇宙船が、逃走と共に迎撃のビームを乱射開始。

 ユキがその腕前を発揮して、白鳥をスイスイと飛翔させつつ、犯罪者たちの攻撃をヒラりヒラりとかわしてゆく。

 コンソールを操るユキの両腕の動きに合わせて、双つの巨乳がプルんと揺れる。

「あ、ユキ。逃亡船、もう一隻 隠れていたよ」

 ビームを撃ちまくる中型逃亡船の近くへと、別の岩陰から寄って来る小型の逃亡船も、白鳥へ向けて熱反応ミサイルを大量に発射してきた。

「無駄な抵抗を」

 大量のミサイルに追われる白鳥のブリッジで、マコトは慌てる事なく、攻撃用ビーム砲のグリップを握る。

 涼やかなツリ目で全てのターゲットを確認すると、地球連邦随一の射撃能力が、素早く発揮。

 白鳥の目が赤く輝いた次の瞬間、一筋の朱い破壊光線が、短い感覚で全てのミサイルへと、一発ずつ放たれる。

 –っギュンギュンギュンギュギュギューーーンっ!

 動きを見抜くその迎撃により、全てのミサイルが残らず爆散。

 トリガーを握る両腕の動きにも、マコトの巨乳がタプんっと弾んだ。

「さ、黙らせようか」

 更に、逃亡船本体からのビーム攻撃を無効化しようと、エンジン付近をビーム攻撃しようとした、その時。

「マコト、異様な熱反応ですわ」

 中型逃亡船がこちらを向いて、船首が展開をすると、大型の対艦破壊光線砲を展開していた。

「あのサイズの攻撃範囲でしたら、私の白鳥では回避できない距離ですわ!」

 ユキの声が少し慌てているのは、そんな攻撃をされたら、手塩にかけたこの白鳥が傷つけられてしまうからだ。

「させないよ!」

 マコトは落ち着いて、しかし素早く、攻撃手段を変更。

 白鳥の嘴が開かれると、クリアオレンジ色の砲身がニュっと伸びて、眩いエネルギーを集める。

 中型航宙船としては最強の破壊力を誇り、更にユキが底上げしまくったオーバーキルな融合破壊砲「ガルバキャノン」が、ありえないくらい急速に力を溜める。

 逃げる事の叶わない砲撃に対しては、完全に正当防衛である。

「発射!」

 敵性艦の破壊砲が発射される刹那の前、白鳥から打ち出された七色の破壊光線は、中型の宇宙船を貫通し、近くの小型船を掠める。

「狙い通り」

 中型宇宙船は爆散したものの、小型の船は航行不能状態で押さえた。

「これで、逃亡犯は確保できるよ」

 一瞬の状況判断の中で、敵への攻撃力を見極めたマコトである。

「流石はマコトですわ♪」

 幼馴染みでもあるパートナーに褒められて、マコトも上機嫌だ。

「それじゃあ、捜査室長へ 報告を上げようか」

 本来であれば、逃亡犯を見付けたら捜査本部へ連絡をしたり、犯罪者を確保して報告を上げたりと、公務員には護るべき行動規約が多い。

 これを怠ると、二人にとっては規則の罰よりも恐ろしい時間が待っている。

 それは、二人の上官であるクロスマン主任の、怒りの空気だ。

 よく言えば犯罪者を許せない熱い正義感で、二人はその事前報告などを、よく忘れる。

 挙げ句に犯罪者たちを全滅させてしまう事も多々あり、報告に上がったらクロスマン主任の怒りの空気を全身に浴びせられて、怯えるマコトとユキである。

 ここ最近は、恐ろしくて注意しながら行動していたけれど、やはりちょいちょい似たような失態を重ねてもいた。

 先日など、事件解決の報告に上がった場で、犯罪組織の偽装ステーションごと全滅という過剰な結果に、クロスマン主任から懲罰の警告を受けたばかりである。

「あの小型船の犯人たちを確保して帰れば、主任から叱られる事も–」

「マ、マコト…」

 ニコやかなマコトに比して、モニターを眺めるユキの声が、寒さに震える子ウサギの如く、怯えた。

 見ると、小型の宇宙船が大爆発を起こして犯罪者たちが業火に消滅してゆく、決定的な瞬間が。

「…え…」

 船外へ出て、逃亡船の破片を集めたら、中型船の爆発と連動して小型船も爆発をする仕掛けになっていた。

「「………」」

 きっと、中型船にはボスが搭乗していたのだろう。

 部下を巻き添えにするのは、ダメなボスの「あるある」でもあった。

 しかし、そんな事よりも。

「…主任に、叱られるね…」

「えぇ…叱られてしまいますわ…」

 レディースコミックから抜け出してきたような美貌の中年上官の、優しい笑顔と引き締まった表情から発せられる、背筋も凍る程の、怒りの圧。

 思い出しただけで、二人のケモ耳もケモ尻尾も、プルルと震え上がってしまう。

「と、とにかく…証拠品は、回収しようね…」

「で、ですわね…」

 地球本星へと帰還して、報告を上げるためには、本部の主任室へと向かわなければならない。

 その際の様子を想像すると、二人は今にも、航宙船で銀河の果てまで逃げ出したい気分だ。

 逃亡宇宙船の残骸を回収して戻って来たホワイトフロールの二人に、操作室長をはじめとする惑星ニストの捜査官たちは、感動と称賛を以て歓迎してくれた。

「ど、どうも…」

「お役に立てまして…」

 中性的な美しい王子様のようなマコトと、穏やかで無垢なお姫様の如きユキの、二人の笑顔が輝いている。

 しかしその笑顔の下の、主任のお叱りを恐れる憂いまでは、捜査官たちに隠し通す事が出来ていたり。

 白鳥のブリッジで、二人は「「はぁ…」」と、美しい溜息を吐く。

「それでは、マコト…」

「…うん。一緒に泣こうね」

 こうして、地球本星へと帰還をする二人。

 クロスマン主任との対面を恐れるものの、そこには意外な対応が待っていた。


                    ~プロローグ 終わり~

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