第9話

 「ほらよ、火はあるか」「あっ、はい、ここにあります」「ぼおっと持ってないで、さっさとつけてよね」「はい、すいません」「おれはいいです、それより酒たのむけど、いる人」「はい、生大おねがいします」(オイオイ、マジカヨ)(スゲェナ、煙モ合ワセテ生大カヨ)「おれは生中で」「おれも」「おれはいいや」「自分もです」「そう、じゃあ、あと生中で」「足りないでしょ、ほら、もっと飲みなよ、元気ださないと」「いや、もう、十分っす」(シミッタレタ顔ダナ)「ほらぁ、止まってるって」「はやくジョイントにつけてよ」(マタボオットシテルヨ、コノ人)「もぉぉ、つけられるの」「はい」「まだ歌詞忘れでも考えてたんじゃないの」「い、いや」「忘れたなんて言って、そもそも覚えていないんでしょ」「違う、覚えたって」「いいから、はやくつけろ」「はい」「べつにいいんじゃない、ラップを合わせるのは本人の問題だから、楽器はちゃんと練習できたんだし」(ハアッ、アレデ練習カ)(デキテナンカネェシ)「いや、あれはひどいよ、アドリブでなにか乗せればいいものを、にやにやと黙り込んで」「ちゃんと覚えてこないからだよ」「ごほっ、ごほっ」「うるさいな、またせき込んで」(練習デ使ッテネェクセニ、喉ガ弱インダヨ)(ミットモナイ人ダ)「まあまあ、なんだかんだ本番には合わせてくるんだから」「まったく、エロ動画ばかりダウンロードしてるから」「ごほっ、ごほっ、してないし、ごほっ」(キタネェナ)「はい」「ああ」「まだ音が合ってないから、ラップ云云じゃなくて、もっと細かい音の出し方やバランスを調整していかないと」「まあ、なんとかなるっしょ」(デタ、イツモノ文句)「そう言って、失敗するんだから」「えっ、そうかな」「でも、間違いをごまかすのがうまいよね」「いつも適当なんだよ」(あどりぶガウメエンダヨナ)「そうですよね、いつもその適当がいいんですよね」(仕事ジャ、ソノ適当ガウマクイッテネエンダヨ)(体ニ合ワズ、身ノコナシガ軽インダ)「適当に見えて、計算してんだよ」「ほら、それが適当なんだよ」「ごほっ、ごほっ」「だいじょうですか」「んっ、なんとか」「適当が常にまずい人もいるからね」「はっ、はい」「いいんだよ、それが持ち味なんだから」(大体糞マズクナッテルケド)(ソウソウ、コノ狂ッタトコロガ面白イ)「はいはい、生大きたよ」「あっ、すいません」「ほら、飲む前に吸っておきな」「はい、いただきます」「おまえもドラムで参加すればいいのによぉ」(モッタイナイ、イイ腕前シテルノニ)「いいんです、みんなを見る方が楽しいんで、じゃあ、いただきます」(スゴイナ、年下ナノニ)「あいつは、やっぱり参加しないの」「ありゃ無理だろ、頑固だから」(コレ以上ハ邪魔ダロ)(顎ヲ尖ラセテ首ヲ振ルヨ)(唇尖ラセテ、スゴイ拒否シテタカラナ)「葉っぱで釣れないの」(無理デショ)「釣る必要ないでしょ」「なにそれ、鶴の真似してんの」「えっ、いや、ちょっと」(ナンダヨコイツ)(馬鹿ダ)「勘違いっす、勘違いっす」(誰モ勘違イシテナイシ)「ほら、ビールも止まっているよ」「あっ、はい」「止まるどころか、ぜんぜん進んでないじゃん」「ほら、吸いなよ」「いや、いりません」(オオ、サスガ)「いつもいりませんじゃん、たまには吸ってみたら」(ホント、吸ワナイ人ダナァァ)「いや、必要ありませんから」「ほらぁ、一度吸ってみればいいじゃん」「うるさいよ」「はっはっはっ」(上手ダナァ)「なに笑ってんの、目を垂らして」「はっはっはっ、目はいつも垂れてんの」「ほらぁ、吸いなよ」「だから、吸いません」(マッタク、頑固ダナ)「酒で十分ですよ、そんなの、頼る必要ないですから」「ほらでた、真面目君」「違いますよ、真面目じゃなくて、いらないんですよ」「一度吸ってみればいいのに」(シツコイ人達ダナァ)「そうだよ、一度吸ってみて、それで必要ないって言うならわかるけど、吸ったことないのにいらないなんて、なんにもわかってないから」「そんな理屈いりませんよ、ばかばかしい」「びびってんだよ、そんなに誘っちゃかわいそうだって」「うるさいよ、ほんと」「びびりなんだ」「うるさい、愚か者」「ほら、またそこで止まってるよ」「えっ、はい」(マッタク、毎回毎回、カワスノモ面倒ダ)(芯ノ強イ人ダナァ、スゴイ)(結局、怯エテイルンダヨ)(吸エバイイノニ、モッタイナイ)(一体何ガ理由デ、ソコマデ拒否スルンダ)「で、どうなの」「んっ」(オッ、口火ヲ切ッタゾ)「やっぱカニゾウさんのあとにおれらなの」「ああっ」「そりゃぁぁ、そうでしょ」(デタデタ、無意識的同調)「もちろん、あんなうまい人のあとにやるってなると、プレッシャーがかかるし、場を盛り下げてしらけさせるかもしれないから、大げさにいえば博打かもしれないけど」(何モ博打ジャネェヨ)「むしろチャレンジとして、カニゾウさんで盛り上がったところでさらに油を注げるようなパフォーマンスをしないといけない、そんな使命をバンドメンバーで連帯するような仕掛けでもあって」「そうそうそう、それくらいやらないと」(油ジャナクテ、火ヲツケルンダロ)(ソッカ、油ナノカ)「なんかムラがあってさぁ、いい時は、ぐっと引き締まって、すげぇ盛り上がるけど、ちょっと知らないハコだったり、調子が悪かったりすると、客がみんな冷静に見るようなライブになるっしょ」「それは、客層が違うから」「それはそうだけど、そんなのは言い訳で、ああいう客を前にしても、盛り上げさせないと」(ソレハ正論ダ)(ヨホドノ実力ガナイト、狭イ範囲ヲ攻メルダロ)「目当てが違えば、客はなかなか受け入れないでしょ」「そりゃそうだけど、そういう客を引っ張ってひきつける実力をつけないと」(タシカニ)(ソリャァ難シイコトダヨ)「いや、現状をわきまえないと、目指すところはもちろんそういうところだけど、今のおれらにはそんな実力ないからさ」「そんな後ろ向きな考えだから、今度のような位置にしたんだよ」(ハアァァ)(ソウイウコトカ)「べつに後ろ向きじゃなくて、立ち位置を見定めての冷静な話であって」(ソノ通リダ)(ソウソウ、前向キナコトダ )「いやいや、そういうマインドをしているから、ムラのあるパフォーマンスになるんだよ」(ソレハナイノデハ、一番デキテルヨウナ)「ムラかわからないけど、どんな客やハコでも、精一杯やっているのはわかる」「そりゃ、わからないわけでもないけど」「おれはいつも本気でやってますよ、だからタイムテーブルの位置を、ちょっと訊いたんじゃないですか」「訊いた……、いや、批判する口調だったね」(ソウデスネ)(気持チガ真ッスグ出タンダロ)「いいえ、そんなことないです、訊く前から話していたじゃないですか」「まあまあ、二人の言うことはどちらももっともだから」(ナニモナラナイケレド、悪クナイくっしょんダナァ)「わけわからないけど、どうせ文句をたれるから、こっちから説明しておこうと思ってだよ」「ああ、そうですか、そういうことですか」「まあいいじゃん、ちょっと止まってるから、ほら、一服入れて」「そうです、小休止ですよ」「ほら、飲みなよ」「うるさいよおまえは」(ドウセオサマラズニ、マタ言ッテクルダロ)(マッタク、皆モ邪魔シテ、何モ進マナイ)(マアイイ、何ヲ言ワレヨウト、絶対かにぞうサンハ真ン中ダ)「どんな位置でも、最高のパフォーマンスをみせればいいだけだから」「そうそう、いつも通りやってれば、わかる人には必ず響くって」「そりゃそうですけど」「そうだよ、心配なんていらないから、間違いないんだから」「心配なんかじゃないですよ、構成の問題ですよ、自分は映画が好きだから痛感するんですけど、配置で内容はぜんぜん変わるんですから」「まあね、でも、自分らがすげぇぇよければ、それが中心になるっしょ」「そんな実力がないから言ってるんじゃないですか」(偉イナ、ハッキリ認メテ言ッテルジャン)「そうだよ、実力がないから、カニゾウさんのあとなんだよ」「はあっ」(堂堂巡ダ)(実力ハアルト思ウケド)「実力がないから、タニゾウさんの前がいいんですよ、わかってない」「わかってねぇぇのは、おめえだろ」(ドッチデモ、タイシテ変ワラナイダロ)(かにぞうサンッテイウ人ハ、ソレホドノ人ナンダ)(ソンナ揉メルコトジャナイノニ)「あのぉ、ビール頼んでいいですか」「おお、飲め飲め、その調子だ」「まだまだジョイントもあるから、これも一緒に飲みな」「まったく、わからず屋なんだから」「どうです、なにか飲みますか」「いらねぇぇ」「おれ生中」「おれも」「おれも生中で」「やっぱ、ウーロン茶たのんで」「自分は、カシスオレンジで」「はあっ、なにその軟弱な飲み物」(ショボイノ飲ムナァ、コイツハ)「おまえは女の子か」「いや、だって」(ハハハ、かしすおれんじカヨ)「じゃあ、頼みまぁぁす」「ちょっとメロウな気分になったんだよなぁ」「えっ、いや」(練習ヲ重ネレバ、必ズウマクイクンダヨ)(チョット、雰囲気ヲ変エヨウト)「そんな、ただ飲みたかっただけなんですから」「コンパ気取りか、この畜生め」「なに飲んだって、いいじゃんかべつに」「原液で飲んでしまえ」(ホントダヨ)「そういうかわい子ぶるところが、売りなんだよね」「ち、ちがいますよ」「おれらのバンドはいいとしても、ゴミ屋バンドも合わせないとなぁ」「適当におもいっきりぶちかませばいいんじゃない」「枠にはまらない、カオスなセッションだしね」「それでも、終わりをきっちり合わせないと、ただの雑音で締まらないから」(ドウセ遊ビダカラ、イインジャナイノ)「それはそうだ」(ごみ屋ばんどノホウガ、ドウナルカワカラナクテ楽シミダナ)「まあ、そこはイベントが近づいたら練習して合わせればいいっしょ、あいつの言ってたように、ゴミ屋という会社の成り立ちと業務内容を音で具現化するから、それぞれが好き勝手に音を鳴らして、徐徐に盛り上げて、滅茶苦茶なくらい狂った音でサイケデリックな物質社会の混沌を表現すれば」「そうそう、定まらないようで、バンド形態の中で自由に暴れ回るように」(ダカラ、コノ会社ハ不安定ナンダヨ、ソレガ良イ点デモアルケド)「まあね、肩の力を抜いて狂うのが目的だから、まだいいか」「やっぱり、面白そうっすね」「じゃあ、一緒にやる」「いや、手一杯なんで、やめておきます」(モウ少シ決メレバイイノニ、ソンナンダカラ幼稚ナ仕事ナンダヨ皆)「でも、やっぱりおもしろそうですよね」「じゃあ、やる」「いや、力が分散するので」「でも、ボンジーも一緒にやるから、どんなもんか一度、近いうち合わせるだけ合わせてみよう」「ああ」「そっかぁ、ボンジーか、楽しみだな」「その人が、もうデビューしている人ですか」(フン)「そう、いい音だすよ」「あれでしょ、高円寺のライブに出ていた」「そうそう、あの時はキーボードだったけど、今はマックに変えてね」「いいねいいね、じゃあ、ゴミ屋バンドではラップせず、エフェクトをやらせてもらうよ」「ああ、そうして」「おれはラップで、適当に煽ったりするから」(格好イイッテ聞イテイルカラ、楽シミダ)(仕事ップリカラシテ、間違イナクウマソウダヨナ)「それにしても、酒こないなぁ」「ジョイントもどんどんまわして」「もう、ほんと、遅いね」。

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