《老人》
少ない年金で暮らすようになってから暫く経つ。
「最近の若者はこれだから」
がここ最近の口癖だ。過去の自分の愚行を棚に上げ、社会と経済を回すために汗や血を流し、命を落としてしまった人間を否定する。私の言動は何も変わってない、子供のころから何も。だが、ここ最近は自分の言動は何処かおかしいことにも気付き始めた。自分の言葉が、思考が、実際の行動と矛盾している時も多いことにも気付いている。何故なら友人と話すときは
「最近の若者は偉いよ、こんな不景気の中頑張って」
と、言葉にすればするほど白々しく、軽薄で意味のないことも分かっていながら。言葉というのは繰り返せば繰り返すほど軽くなるものなのだ
「今の私の言葉は塵よりも軽いのだろう」
そんなことを呟きながら臥床する。
最近、悪夢を見るようになった。自己矛盾からのストレスだと原因は分かっているつもりだが、そう無視できるものではない。この悪夢という苦しみから逃れるため日に日に睡眠薬が増えていく。睡眠薬のせいか悪夢を見る頻度も増えた気がする。ストレスか老化か髪は抜け、審美眼と思い込んでいた眼は老眼のせいか薬のせいか幻覚と現実の区別もつかなくなり、複数人の話を聞き分けれると吹聴していた耳は難聴か幻聴かわからなくなり、かつて子供を抱えてた腕は細く震えるようになった。
「悪夢はもううんざりだ」
薬を取り出しながら呟く
「やはり獏なんて所詮妖だ、期待はできない」
嚥下した錠剤が溶けるのを感じながら眼を瞑る。
『夢』 カプサイシン @MEll1892
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