無謀な命令違反
レイレンが何をしたのか。
それを語ろうとしたコルンは、危機感と絶望で打ちのめされているように見えた。
「セリシア様に接触できない以上、説得するならセイリンの方だって言って……あいつはフィルドーネに頼んで、ずっとセイリンと交渉していたんだ。それでセイリンが折れて、どうにかおれだけここに送ってもらえた。自分の魔力を使えないレイレンは、その代わりにフィルドーネの力を使わせてもらったらしくて……それでも緊縛に逆らった反動で、数日は寝込むだろうって言ってた。」
「じゃあ、レイレンは……」
みるみるうちに、血色を失う実たちの顔。
コルンはより一層表情を歪め、つらそうに目をつぶった。
「安全は、保証できない。あいつは上手く言い訳するって言ってたし、キース君がこっちにいる以上、当代の〝フィルドーネ〟をそう易々と殺せないとは思うけど……それでも、陛下からの謹慎命令に逆らっておれを逃がしたとなれば、どんな処罰が下されることか…っ」
殺されずとも、それに準じる処罰とは何か。
記憶の削除と洗脳くらいで済めばいいが、フィルドーネの加護がついているレイレンに、そんな魔法が通用するかは怪しい。
そうなると、考えられるのは肉体的な処罰。
王命に逆らった代償は一体なんだ?
手足か?
それとも目や耳か?
どんなに楽天的に考えたって、五体満足でいられるレイレンを想像できない。
「どうして……そんな危ないことを……」
無意識に呟いたその瞬間に、レイレンの思考回路だけは分かる気がした。
一つの理由は、単純に彼がエリオスと会えなくなることを容認できなかったから。
そしてもう一つは、セリシアを守りたいがため。
『エリオスが心から愛してる子だもん。僕が愛さないわけないでしょ?』
以前レイレンは、自分に向かって恥ずかしげもなくそう言った。
同じ理論でレイレンが動くなら、父が愛している母を当然のように守ろうとするはずだ。
でも、そのためにレイレンは―――
「早く……早く戻らないと!」
居ても立ってもいられなくて、実はエリオスに詰め寄った。
「まだ間に合うよね!? これって、俺たちがあっちに戻ればどうにかなるんじゃないの!?」
「……分からない。」
エリオスは悩ましげに眉を寄せる。
「今回のことが丸く収まったとしても、前科がついてしまった以上、彼女たちは危険分子として警戒されるだろう。私たちが直談判すれば刑は軽くできるかもしれないけど、無罪放免とまでは……」
「でも、殺されずには済むんだよね!? なら、どうにかして戻ろうよ!!」
実は声を張り上げる。
「母さんだってレイレンだって、俺にとってはかけがえのない大事な人なんだ!! そんな二人を犠牲にして地球での平和を与えられたって、俺は嬉しくない!! 幸せになんて生きられないよ!!」
「………」
「父さん!!」
「―――なんで……」
ふとその時、コルンが小さく声を発した。
「なんでだよ。なんで……お前もセリシア様も、ルゥを異世界に遠ざけようとするんだよ。」
「―――っ!!」
コルン以外の全員が瞠目する。
顔を上げたコルンは、実たち一人一人と視線を交わらせた。
「みんな、おれが知らない何かを知ってるんだろ? 信用を積み上げて手に入れた地位も、命すらも投げ出せるような事情があるんだよな?」
コルンの双眸は
どんな現実でも受け止めるという強い覚悟が、その瞳には宿っていた。
「―――いいよ。俺から話す。」
一番に腹を決めたのは、実だった。
「ルティ!!」
「父さん。コルンおじさんには、もう話してあげようよ。」
非難めいた声をあげたエリオスに、実はゆっくりと首を横に振る。
「ここまで巻き込まれちゃったんだ。コルンおじさんを守るためだっていうのは分かってるけど、ここに来てまで何も話さないのは、かえって不誠実だよ。」
まずは一般論を。
そして次に述べるのは、ささやかな感情論。
「それに、コルンおじさんのことは信じてあげてもいいんじゃない? コルンおじさんはこれまでずっと、俺のことを秘密にしてくれてた。何も知らない状態だったのに、何も訊かずに俺たちを支えてくれてたでしょ? 話すに値する信用は、もう十分集まってるはずだよ。違う?」
「………っ」
実の言葉を否定できないのか、エリオスが返答に窮した。
「そりゃもちろん、話すのは怖いよ。でも……俺は、コルンおじさんを信じたい。」
「ルゥ…」
大きく目を見開くコルン。
そんなコルンをまっすぐに見つめて、実は決意を固める。
「今度こそ、ちゃんと話すよ。俺の秘密を。」
実は語る。
自分が抱えている
そしてそれに振り回されてきた、エリオスたちの苦悩の全てを。
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