コルン、激怒。
今まで秘めてきた真実。
それを説明し終えるまでには、かなりの時間がかかった。
途中で、詩織が何度お茶やお菓子を補充していっただろうか。
怖いと口にしながらも、語る実はとても淡々としていた。
そしてそれを聞くコルンも、話が終わるまでは一言も発することはなかった。
他方のエリオス、拓也、尚希の三人は、いつ豹変するとも限らないコルンの様子に警戒し、一瞬も気の抜けない時間を過ごすことになっていた。
「―――これが、母さんが俺を地球に追いやった経緯だよ。これで
話の締めくくりとして実がそう訊ねたが、コルンは身を震わせるだけで何も答えない。
それも仕方ないことだろうと思い、実はコルンを刺激しないために口を閉じた。
コルンがまともな反応を返せないのも当然だ。
いくらこちらに事情があることを察していたとはいえ、さすがにこんな現実は想定していなかったに違いない。
彼がどんなことでも受け止める覚悟をしていたとしても、こればかりは許容範囲外だったと思う。
信じたいと思ったのは本当だが、実際のところは、コルンがどんな反応をしようとも受け入れる心づもりがある実だった。
「―――っ」
しばらく激情に打ち震えていたコルンは、突然勢いよく立ち上がる。
その手が勢いよく伸びて―――実の隣に座っていたエリオスの胸ぐらを乱暴に掴んだ。
「この……大馬鹿野郎!!」
エリオスを立たせたコルンは、最大級の怒号をエリオスに浴びせる。
「なんで……なんでこんな大事なことを、おれに話してくれなかったんだよ!! ちゃんと知っていれば、もっと他に協力できたことがあったはずじゃないか!! お前はおれのことを一番に信用してくれてるって思ってたのに……それは、おれの
思いもよらないコルンの叫び。
それに虚を突かれたエリオスは何度かまばたきして、カチンときたのか表情を大きく歪める。
「ちゃんと信用していたさ! その分、大事にも思っていた! だからこそ、君を巻き込みたくなかったんだ!! 君は安定を第一に考えていたじゃないか! それを壊すことなんて、できないだろう!?」
「今まで散々お前の都合に巻き込んでおいて、今さらよく言うな!? 中途半端なところで妙な優しさを発揮するくらいなら、初めっからちゃんと巻き込め!!」
「じゃあ君は、最初からルティのことを知っていても、私に手を差し伸べたのか!?」
「当たり前だ!!」
間髪入れずに放たれた、コルンの返答。
それにエリオスだけではなく、実たちもびっくりしてしまう。
「エリオス、お前な……何年の付き合いだと思ってるんだよ。お前が〝知恵の園〟に来てから十八年……もう、そんなに経つんだぞ…?」
コルンは、激しい怒りをたたえた瞳でエリオスを睨む。
「確かにおれは、保身第一だったさ。でもな、お前のためなら保身を捨てられる気概くらいあったわ!! そうじゃなきゃ、半泣きになりながらもお前に付き合うわけないだろ!?」
「………っ」
今までそんなことを言われたことはなかったのか、エリオスが大きく目を見開いた。
その間にも、コルンの言葉は続く。
「おれは、お前がいつも上辺だけで笑ってて、裏では他人を信じていないことを知ってた! そんなお前が、唯一おれに心を許してくれてたことも分かってた! だから放っておけなかったんだよ!! お前が信じられるのがおれだけなら、おれはその信用に応えてやろうって……だから何があっても、お前の敵に回ることだけはしないって、そう決めてたんだぞ!!」
「コルン……」
「ああ、今全部納得したよ。お前はずっと、こんな悲しい未来を抱えて生きてきたんだな。だからあんなに、他人との距離に敏感だった。セリシア様のことだって、好きだったくせに遠ざけようとした。勝手に一人で背負い込む覚悟をして、おれたちを切り捨てて城を出ていったのも……全部、ルゥやおれたちを守るためだったんだな…っ」
エリオスを睨みつけるコルンの目尻から、涙が零れ落ちていく。
「おれは悔しいよ…。こんなことになるなら、無理にでもお前が抱える闇に踏み込めばよかった。距離感なんて考えずに、お前にだけは突っかかっていけばよかった。未来が見えるっていうお前の苦しみを……もっとちゃんと、理解してやろうとすればよかった。……巻き込めって怒るんじゃなくて、自分から巻き込まれに行けって話だったんだよな……くそっ…」
コルンの怒りは、いつしかエリオスではなく、自分自身に向けられていた。
「なぁ、エリオス……お前、よく周りの子供たちにこう言ってたよな。先入観に囚われないでくれって。周囲に貼られたレッテルはまやかしでしかないから、自分の目で相手を見て、素直な心で相手の心ときちんと向き合ってほしいって。」
「!!」
「おれはその言葉を、お前の傍で腐るくらい聞いてきたんだぞ? そんなおれを……どうして、最後の最後で信じてくれなかったんだよ……」
悲しそうなコルンの目が、エリオスの隣で
「こんな子供に、なんの罪があるっていうんだ。〝鍵〟として生まれる子供は、最初から血も涙もない化け物なのか? おれにはそうは見えなかった。ルゥはすごく優しい子だった。めちゃくちゃ可愛い天使だった。お前が見ていた未来には、ルゥがどんな子に映ってたんだ? 純粋で心が綺麗な子だったから、お前は必死にルゥを守ろうとしたんじゃないのか!?」
コルンは、激しくエリオスの体を揺さぶった。
「ふざけんなよ!! 〝鍵〟だからって、おれがお前らの子供を殺すとでも思ってたのか!? おれはお前らのことを、嫌ってほど知ってんだぞ!? 確かにお前は冷徹だけど、自分が大事に思う人間には正反対の愛情を注いでただろ!? そんなお前が、愛するセリシア様との間にできた子供を
「コルン……おじさん……」
実は、茫然と
エリオスたちの子供ならば、無条件に信じるつもりだったのに、と。
怒りに揺れるその声から、何度もそう訴えられているようだった。
「ルゥ……ごめんな、驚かせて。でもおれは……
エリオスのシャツを握り締めるコルンの手に、これでもかというくらいの力がこもる。
「今後言い訳させないために、今この場ではっきり言う。おれはルゥを殺さない。……殺せるわけがない。こんな……優しくて愛おしい、可愛い子を。」
「―――っ!!」
一番の動揺を見せるエリオスに、コルンは今までの激情が嘘だったかのように弱った表情で語りかけた。
「お前もルゥを見習って、少しはおれを信じろ。おれへの信用は、十八年じゃ足りないか?」
「………」
エリオスの顔から、表情が消えていく。
脱け殻のようになってしまったエリオスを解放したコルンは、次に実の傍に近寄った。
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