母を襲う危機
「コルンおじさん!?」
床に倒れた人物に、実は声をひっくり返してしまっていた。
「うえぇ、頭が……次元移動って、こんなにえぐいのかよ……」
「コルン、どうやってここに…っ」
エリオスがコルンに駆け寄って体を支え、他の皆も慌ててコルンの近くへと集まる。
「エリオス…?」
と、その顔が一気に変化した。
「エリオス! ルゥ! 助けてくれ、まずいことになった!!」
すがりつくようにエリオスの二の腕を掴み、コルンは必死の形相でその体を揺らす。
「このままじゃ、セリシア様が反逆罪で殺される!!」
「―――っ!?」
息を飲む実たちに、コルンは事の経緯を語り始める。
「あの後、異変を察知したレティル様や陛下が駆けつけてきて、陛下たちにセリシア様がこう言ったんだ。次元の扉は閉ざしたから、ルゥたちはもう二度とこちら側に来られない。これが私の答えですって…。その場で次元移動を試してみたけど、本当にできなくて……それで…っ」
「レティルの奴が、母さんを殺せって言ったの…?」
声が勝手に、怒りで震えた。
こんな横暴をする奴など、彼以外に考えられない。
桜理の次は、母にその手をかけようというのか。
しかし……
「いや、これは陛下の命令だ。」
コルンは実の問いに否を唱えた。
その意外な事実に、実は少しばかり反応が遅れてしまう。
「レティル様はそれを聞いたら、なんかひどくショックを受けたみたいな顔をして……そのままどこかへ消えてしまわれて、城に戻ってこなくなったんだ。まあ、それがさらに陛下を怒らせてしまったというのはあるんだけど……」
深刻そうな表情で、コルンは続ける。
「城も〝知恵の園〟もカンカンだよ。ルゥがまたいなくなったこともそうだけど、そこにエリオスたちが巻き添えになったことがかなりまずかった。」
「私たちが…?」
「ああ。」
「歴代でも最高峰の〝アクラルト〟であるお前の能力を、城が簡単に諦めるわけないだろ。ルゥとセットでお前まで遠ざけられたら、なんのためにお前を王族の末席に加えてやったんだって話になるから。」
「ああ……なるほど。確かに、私の血を王家に引き込むという目的は瓦解するね。私は城から離れたというのに、そこには意地汚く期待していたのか……」
「エリオス様は分かるけど、なんでそこでオレたちまで…?」
尚希が訊ねる。
拓也もいまひとつ、理由にピンときていないようだ。
「二人とも、自分の立場をよく考えてよ……」
自分の力を理解していなかったのか。
どこか嘆かわしげなコルンは、そう言いたげだ。
「キース君。君はレイレンから力を引き継いで、もう次代〝フィルドーネ〟としての立場を確立している。それにティル君だって、鎮魂祭の時から強い火の加護を受けてるよね?」
「………」
一応自覚はあるらしい。
拓也は面白くなさそうに、視線を横に滑らせた。
「精霊の話によると、ティル君についた加護は精霊神直々のものらしいね。ということは、ティル君が次代の〝ティートゥリー〟になることは必定と言っていいはずだよね?」
「………っ」
拓也はますます、不機嫌そうにふてくされる。
鎮魂祭の時には、サリアムが死んでもいないのに神託を受ける一歩手前までいっていたのだ。
魔力の放出でイルシュエーレの元に通っていた時も、拓也のところには多くの火の精霊が集まってきていた。
コルンの指摘は、誰にも否定ができない現実だと言える。
「だからまずいんだよ。四大芯柱なんて、そう簡単に替えが
ようやく合点がいった。
四大芯柱に深く関わる人間が、三人も地球に飛ばされた。
精霊神がほいほいと次の人間を指名するわけがないことを加味すると、これは国どころか世界の危機にも直結する。
それ故に、母が犯した過ちは重く受け取られざるを得ないだろう。
「母さんは……」
事情が明らかになると、いの一番に気になるのは母の安否。
「なんとか、城からは逃げおおせたみたい。まだ見つかってないと思う。でも…っ」
コルンの声が揺れる。
「セリシア様は、エリオスほどずる賢いわけじゃない。持っている人脈っていっても、王家絡みの相手ばかりだ。頼ればすぐに足がつく。この状況で城の捜査網から
「……そうだね。城からほとんど出たことがない彼女は、城下の渡り歩き方など知らないだろうからね。」
絶望的なコルンの言葉を、エリオスは静かに肯定する。
状況は、最悪だとしか形容できなかった。
「ごめん……」
コルンは深くうつむく。
「おれが手助けできればよかったんだけど、おれとレイレンはセリシア様に手を貸す可能性があるってことで捕縛されて、緊縛部屋に放り込まれてたんだ。」
「緊縛…?」
そこで、エリオスの眉がピクリと跳ねる。
「その状況で、どうやってここに来られたんだい? あの部屋では、魔法は一切使えないはずだ。」
エリオスが疑問を口にすると、他の皆にも懐疑的な空気が伝播していく。
「……レイレンがやったんだ。」
やりきれないと。
その瞬間、コルンがそんな気持ちを示すように唇を噛んだ。
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