拓也が持つ槍の秘密

「―――っ!?」



 腹をくくってその一言を告げると、エリオスが激しく動揺した。

 実は訥々とつとつと続ける。



「父さん……さすがにこればかりは、見て見ぬふりはできないよ。母さんの記憶の中で、あいつは父さんに言った。いずれ連れていかれるなら、いっそのこと俺を自分にくれって。父さんも、俺を連れていかせないって言って、怒ってたよね。」



「そんな記憶、いつの間に…っ」



「あいつも父さんも、同じことを言ってた。それってつまり、それが俺の本来の運命に繋がることなんじゃないの?」



 志を同じにした戦友だと。



 レティルはエリオスをそう評して、やたらと大事に思っていたようだった。

 そしてエリオスもまた、レティルと利害が一致していたことを認めている。



 この二人の間には、自分以上に深い因縁があるのだろう。

 そんな二人が共通して口にした、〝連れていかれる〟というキーワード。

 それは、ずっと頭に引っかかっていた。



 きっと、あの記憶で交わされていた会話の中に、自分という存在を紐解く情報が凝縮されている。



 いつかは訊かなきゃいけないと思ってはいたけど、なんだか知るのが怖くて、後回しにしていた。



 その逃げももう、ここで終わりのようだ。



「………っ」



 エリオスは実から目を逸らして、唇を固く引き結んでいる。

 せわしなく動くその瞳は、この場をどう切り抜けるかを模索しているように見えた。



「ここで黙ってると、手遅れになるかもしれませんよ。」



 その時、自分を援護してくれるかのような言葉が入ってくる。



「そういやあの時、あいつもあなたもそんなことを言ってましたね。今思い出しましたよ。だから連れていくな、だったのか…。ようやく納得がいった。」



 皆の注目を集めた拓也は、まっすぐにエリオスを見つめた。



「いいことを教えてあげます。……と、その前に。あなたの逃げ道を一つ塞がせてもらいましょう。」



 そう言った拓也は、エリオスに向かって短くしてあった槍を掲げて見せた。



「風のせいでねじれていたあの空間で、おれがルティの元へ最短で駆けつけられたのは、こいつが先導してくれたからなんですけどね……それで、気付いたことがあります。」



 きらりと。

 拓也の目が光る。





「こいつに宿っている魔力―――ルティの魔力が基盤ですね?」





 告げられたのは、衝撃の事実。



「え…?」

「嘘だろ…っ」



 実と尚希が、それぞれに驚愕の声をあげる。



「ルティ。もう一度こいつに触れてみな。上手くごまかされてるけど、お前なら分かるはずだ。」



 拓也は実に槍を放り投げる。

 それを受け取った実は感覚を研ぎ澄ませて、やがて固唾かたずを飲むことになった。



「……本当だ。別の力も混ざってるけど、俺の力の波動によく似てる。」



 手にした槍は、驚くほど自分の手に馴染む。

 まるで、自分の体の一部のようだ。



 感じ取った魔力の波動云々うんぬんよりも、この感覚が拓也の言葉の正しさを物語っていた。



 試しに魔力を流し込んでみると、槍は強く発光してその魔力を己の中に取り込んでいった。



 一つの器に適合する魔力は一つだけ。



 以前レティルから聞いたこの法則が召喚具でも成り立つのだとしたら、自分の魔力が受け入れられたという、この現象が指すところは―――



 実はそろそろと、エリオスを見上げる。



 エリオスは、驚いてはいなかった。

 そんなエリオスの反応を眺める拓也も、特段驚いた様子はない。



「その顔は、やっぱりこれがどういった代物かを知っていたんですね。もしかすると、これを作る過程にも関わっていたとか? 例えば、ルティの血でも提供したとかね?」



「………」



 エリオスは黙秘。

 しかし、拓也はこれまでのように問い詰めはせず、あっさりとこの話を切り上げた。



「まあ、だんまりでもいいですよ。これは、おまけ程度の確認でしかないので。では、この槍の存在意義を念頭に置いた上でお聞きください。」



 拓也は神妙な面持ちで、話を転じた。


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