語られる事件裏

 エリオスの怪我の手当てを済ませ、全員はソファーにそれぞれの面持ちで腰かける。



「さて。」



 どのくらい時間が経過した時だったか、エリオスがゆっくりと口を開いた。



「まずは、君たちの一番の疑念に答えておこうか。―――答えはイエスだ。」



 なんのことかとは言われなかったが、この場の誰もがその意味を分かっていた。



 エリオスは認めた。

 これまでに起こった数々の事件に、自分が関わっていたことを。



「いつからです?」



 拓也が詰問に近い口調で訊ねる。

 それに対して、エリオスは小さく肩を落とすだけだった。



「ほとんど最初からと言っておこうか。君たちが私に疑いの目を向けたのは、レイキーの一件からだね?」



 こちらの動向を確実に知っていただろうその言葉。

 実はそれに悲しげな顔をして、一方の拓也は険しく眉を寄せる。



「あれで足がつくと、分かっていたんですね……」



 そこで呟いたのは尚希だ。

 エリオスは静かに目を閉じた。



「あの一件はさすがに、私が直接手を出すしかなかったからね。ルティを確実に油断させることも、ルティなら抜け出せる細工をするのも、私にしかできないだろう? 間違いなく、あれでルティには気付かれると思っていたよ。さすがに、キース君がレイキーの王子と組んで、事件の調査に乗り出すとは思っていなかったけれどね。まあそこは、今ならニューヴェルを釣れるはずだとそそのかした私の落ち度だ。」



「あれも、エリオス様の差し金だったんですか……」



「君たちなら、絶対にルティを助けに来てくれると思ってたからね。」



 うめく尚希に、エリオスはくすりと笑った。



「他にも色々とやったさ。キース君絡みでいえば、そうだね…。ルティがリラステに襲われる未来が見えたから、あえてキース君の存在をにおわせて、ルティが顔を出しそうな場所にリラステを誘い込んだ。ルティが行く場所には、大体君がついてくるだろうからね。リラステがキース君に接触する前に、ルティにあのネックレスを託せたのは僥倖ぎょうこうだったよ。まあ、その時間を稼ぐために、さりげなくリラステの邪魔はしていたんだけどね。」



「他には?」



「もう、言うまでもないと思うけどな。ワイリーに協力する過程でスーヴェルカルトに潜入したら使えそうな人間がいたもんで、それとなく誘導してユエちゃんをタリオン方面に捨てさせた。キース君の中にいる精霊を地球に送ったのも、裏の鎮魂祭の準備をしていたのも私だ。サティスファのことは、言うまでもないよね。レイレンに頼んで、君たちをサティスファに来させたわけだし。」



 拓也に促され、エリオスは次々に自分が加担していた事件を語る。

 それを聞けば、数多くの事件がエリオスの手のひらの上だったことは明らか。



 話が進むにつれて、実や尚希の顔色はどんどん青くなっていった。



「他にも、未来が見えていてあえて放置した事件もあった。完全に想定外だったのは、ティル君が地球で死神に狙われた事件と、イルシュエーレがルティを隠してしまった事件かな。イルシュエーレの件は、ルティが彼女と共にいると決めたならそれでいいと思ったけど、ティル君の事件の時にはさすがに焦ったね。あれがなければ、二度とあの方と関わる気などなかったっていうのに。」



 そこでエリオスの表情が、憎々しげに歪む。



「私には手出しできない状況だったから、仕方なくあの方に情報を流して利用したと考えればいいんだろうけど…。不愉快なものは、不愉快だよ。」



 低くなるエリオスの声。

 握り締められた拳は白くなり、小さく震えている。



 死神に襲われたあの時、レティルが都合よく介入してこられたのは、エリオスがそれを彼に教えたからだったのか。



 結果論で言えば英断だったのだろうが、それを己が許せるかは別の話。

 エリオスの姿を見ていると、それがよく伝わってきた。



「……分からねぇな。」



 その時、ふいに拓也が呟いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る