ギリギリの抵抗

「ちょっ……お前、正気か!?」



 自分の周囲に光が満ちていく様に、彼はひどく焦っていた。



「正気だよ。今じゃないと、チャンスがない。……くっ…」



 必死に魔力を操る腐れ縁のそいつは、その表情に苦痛の色を浮かべて歯を食い縛っている。



 なんて無茶なことを。

 一切の魔力が封じられるこの部屋で、無理に魔力を使うなんて。



 反動の苦しみがいかに壮絶かは、この部屋の維持に関わっている人間なら知っているはずなのに。



「馬鹿! やめろ!! そんなことしたら、お前が―――」

「まあ~、軽く数日は寝込むだろうね。」

「それもあるけど、そういう意味じゃない!」



 話を逸らそうとしないでくれ。

 こちらが何を危惧しているかは、分かっているくせに。



「大丈夫、大丈夫。上手く言い訳するさ。」

「何が言い訳するだよ! 言い訳する前に殺されたら、元も子もないだろうが!!」



「ははは、確かに。寝てる間に今生にグッバーイ♪ ……なんちゃって。」

「笑い事じゃない!!」



 必死に言い募るが、奴は魔法を構築する手を止めない。



「そんなに青くならないでよ。そこも大丈夫だって。今の状況じゃ、あの人たちも僕を殺せないさ。あの人たちが焦っている理由を考えれば、それは確実なはず。」



「でも、確証はどこにも…っ」



「ない、けど……とりあえず、意識が戻るまで生かしてもらえればオッケーさ。にっちもさっちもいかない状況に風穴を開けてやったってなれば、なんとか死罪はまぬかれられるんじゃないかな。言いくるめられる自信はある。だから僕がここに残るんだよ。」



「馬鹿野郎! 何度も言わせるな! お前がそんなことをしたって知ったら、あいつらがどんな顔すると思ってんだよ!!」



「悲しみはしないんじゃない? 僕はどっちかっていうと嫌われてるし、清々したって言うかもね。」



「お前な…っ」



「さあ、無駄なおしゃべりは終わりだよ。」



 説得もむなしく魔法が完成してしまったのか、自分を包む光が風となって渦を巻く。



「じゃあ、みんなをよろしくね。どうにか、あの人を助けてあげて。」



 苦しいくせに精一杯の笑顔を浮かべるあいつの顔は、すぐに光の洪水に掻き消されていってしまった。


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