和くんとの出会い
和くんとの出会いは、大学の合コンだった。
入学してすぐの所謂「新歓コンパ」。私は、別に部活にもサークルにも所属していないので、どの先輩が私を新入生として歓迎してくれるのか分からなかったけれど、そんなことはどうでもいいらしい。
大学とは、これまでの常識が通じないところみたい。
友だちに誘われて、「人数合わせだから」とか「いるだけでいいから」とか「女の子は参加費千円で食べ放題、飲み放題だから」とか口八丁手八丁言われて参加することになった。
実は、「私の小さな秘密」から合コンみたいな席は苦手だった。参加しても男の子と気軽に話したりはできないと思っていた。そして、その秘密は大学で新しく友達になった子たちには恥ずかしくて言えないでいた。
大学生になってがらりと人間関係も変わってしまったし、誘ってくれた子とも仲良くしておこうと思って断れなかったというのもある。コミュニティに入れないと大学生活に支障が出るかもしれない。
もう一つ言うと、大学に入学して一人暮らしを始めたので、いつも自炊をしている。だからこそ、外のご飯が食べてみたくなった。自分で作った料理は全然気持ちが上がらない。味も想像できるし、想像以上のごちそうは出てこないのだから。
合コンは、三対三の比較的小規模なものだった。
女の子組は私以外の二人が前のめりだった。その分、私は冷めてしまっていた。合コンの相手には興味がなく、私はテーブルの上の料理ばかり見ていた。
そのせいで一つ失敗をした。
バシャー
グラスに肘が当たって飲み物をこぼしてしまったのだ。思いっきり隣にいる人にチューハイをかけてしまった。
「ご、ごめんなさい!」
私は慌てて謝った。隣の男の子は、せっかくの合コンが台無しになって怒っているかもしれない。
それなのに「大丈夫大丈夫」と笑って許してくれた。店員さんにおしぼりをもらっていたし、私の方にかかっていないか気を使ってもくれた。
それが切っ掛けで、話をしていたら いつの間にか料理のことはどうでもよくなっていた。それが和くん。私より一年先輩で二年生。
チューハイをこぼした音が私が恋に落ちた音だったみたい。ヒットソングや少女マンガとは全然違うきっかけだったけど、間違いなくあの瞬間だった。
*
そこから、アカウント交換をしたり、日を改めてデートしたり、普通の出会いで普通のスピードで二人の心は近づいて行った。
夜遅くまでメッセージを送り合ったりもした。これまで無料スタンプで済ませていたけど、可愛いスタンプも買ってみた。
髪の長い子が好みだと聞いたので、髪も伸ばしてみた。高校ではみんなおかっぱだった。一言で言えばワカメちゃん。可愛いと思っていた訳じゃなかったけど、周囲がみんな同じ髪型だったから、あまり気にしていなかったかも。
デートに行くために、可愛い服も買った。女子大生らしい服、でも派手過ぎない服。多少の背伸びはいいけれど、背伸びしすぎると転んでしまう。ちゃんと地に足がついた行動を取るように心がけていた。
一番最近選んだのは、紺のハイネックTとギンガムチェックのフレアスカート。大学生らしく
何度目かのデートの時、遊園地に行った時に和くんに告白された。和くんは清潔感もあったし、背も高いし、何かあった時に気遣ってくれる。
和くんは他の男の子と違った。例えば、食事。凄く姿勢がきれい。そして、丁寧に食べる。マナーが良いのか、作法が良いのか、そこは分からない。男子と言えばガチャガチャしたイメージだったから苦手だったけど、和くんは違う。
歩道を歩く時にさりげなく自動車側を歩いてくれる。本当にこんな人が実在するとは思っていなかった。あれは少女マンガの中の世界だけの生き物だと……想像上の生き物。
和くんは、体育会系の部活にいたらしく腕の筋肉も筋張っている。この辺り私の琴線に触れた。カッコいい! あの筋肉に触りたい! そんなこともあって、二つ返事でOKしたけれど、「私の小さな秘密」から二人の関係はそれ以上なかなか進まなかった。
それでも、和くんは焦らないでいてくれた。だから、私は思い切って彼に「私の小さな秘密」を告白することにした。
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