私の小さな秘密

 「私の小さな秘密」は、高校の時に女子高だったから男子に全然免疫がないこと。そして、通学の時に毎日満員電車だったから何度か痴漢にあっていて男の人が怖くなっていること。本当は男の人と話すもの怖いこと。


 ただ、私だって一応 年頃の女。人並みに彼氏彼女と言うものに憧れもあるし、夢見ていることも合わせて告げた。


 和くんは、過去にあった痴漢に対して私の代わりに怒ってくれた。その上で、「これからは、俺が守って行くから!」と言ってくれた。


 それどころか、「変に焦ったりする必要はないよ。俺たちには俺たちのスピードがあるんだから、慌てずに俺たちのスピードで進んで行こう。俺のことまで怖くなってしまったら最悪だから、包み隠さず言って欲しい」って言ってくれた。


 そのあとに「あ、ちょっとカッコつけすぎた?」って真っ赤になって照れていた。反則過ぎた。カッコつけすぎないところが素敵。だからこそ、余計に信用できた。


 この言葉を聞いて私は思った。私が誰かと付き合うことができるとしたら、和くんしかいない! 他の人では私は私らしくいられない、と。


 そこから数か月かけて仲良くなっていった。他の女の子に取られない様に一生懸命アピールもした。そしたら、夏休みに和くんが実家に里帰りするときは、一緒に行こうって誘ってくれた。


 最初はご両親に会うなんて怖いと思っていたけど、和くんがどんな家で育ったのか興味があった。どんなご両親に育てられたのかも興味があった。


 あんなキラキラできちんとしていて、清潔感がある人……これまで私の周囲にはいなかった。(……と言っても、女子高時代は学校には女の子しかいなかったけど)


 大学から電車で約二時間のところに和くんの実家はあった。最寄り駅は無人駅で駅から家までは車で迎えに来てもらわないと一時間近く歩くことになるような田舎だった。


 すごく意外だった。和くんは都会っ子に見えたし、洗練されていた。



「和くんは都会っ子だと思ってた。ちょっと意外」



 ズバリ思ったことを投げつけてみた。そしてら、「ごめんごめん。幻滅した? 俺だって田舎から都会に出てもう一年ちょいだよ。それなりに垢抜けてたっていいだろ?」って。ちょっと照れたような、拗ねたような表情。


 ズキューンと心が射抜かれた。また好きになってしまった。


 むしろ完璧すぎるんですけど!


 そして、農家のお宅はすごく大きい日本的な家だった。おじい様とおばあ様が農家をなさっていて、お父様とお母様が会社勤めされているのだという。


 みなさんニコニコしていて、私のことをすごく歓迎してくれていた。お料理も食べきれいないくらい出してくれたのが涙が出るほどうれしかった。


 家が農家だからか、お野菜がすごくおいしい。そして、肉もたまごも新鮮で、なにより味付けが私好みだった。もしかしたら、農家なので味が濃い目なのかもしれない。はっきりした味付けは好きなので どれもおいしく食べられた。


 私も少しだけお料理ができるから、披露したかったけど、私が着いた時点で全ての準備は終わっていたみたいで私の出る幕はなかったのだった。


 それだけに、和くんに「今度、遥の手料理食べてみたいな」と言われた時は、「是非に!」と答えたものだ。


 そう言った意味でも、和くんの家に行ったら手料理を作って食べてもらい、益々私をアピールしないといけないのだ。


 居間では私の周りにご家族がいて、「これも食べてみて」、「これもおいしいよ」と代わる代わる色々な物を出してくれた。もうこれ以上食べられないと思っていたら、和くんが私の手を取って「遥は俺のだから!」と言って和くんの部屋に連れて行ってくれた。


 ご両親のご厚意だから応えたいと思っていたけれど、「もうお腹いっぱいです」は中々言えないでいた。そんな私のことを見てくれていたのか、和くんが助けてくれたのだ。この人は私をキュン死させる気かもしれない。


 和くんの実家に来て思わぬ収穫は他にもあった。和くんには中学三年生の妹ちゃんもいた。そうか、妹ちゃんがいるから女の子との接し方が自然なのか。優しすぎて何かあるのかもと疑った自分を呪いたい。


 その妹ちゃんとも仲良くなってしまった。妹ちゃんには、「ずっとお姉ちゃんが欲しかった」と言われて抱き着かれた。可愛い! 可愛すぎる! てえてえ!


 妹ちゃんには和くんの小さい時のアルバムを見せてもらったし、以前は男子校だったから高校時代には彼女がいなかったことを教えてもらった。高校時代は野球をしていて坊主頭だった写真も見せてもらった。これも思わぬ収穫だった。


 そして、このおじいちゃん、おばあちゃん、ご両親、妹ちゃんを見て分かってしまった。この気持ちのいい人に囲まれて育ったから、和くんはあんなに気持ちのいい人なのだ、と。


 同時に、「私もこの輪の中に入りたい。入れて欲しい!」と思った。私もそれだけの人間でないと失礼になってしまう。私も和くんに全力で接しよう。


 付き合って半年以上たつというのに、キスもまだだという……こんな中学生みたいな付き合い方でも和くんは急かしたりしない。私も和くんは信用できるし、もう少し積極的になってもいいのかも、と思った。



 *



 後日、和くんの家に行きたいと思ったけど、急に変わるとまた変だ。切っ掛けがつかめず、モヤモヤしていた。


 和くんのアパートの場所は知っていた。そして、学校がある日は朝7時に起きることも会話の中から知っていた。


 和くんの朝ごはんは、もっぱら菓子パンで少し不満に思っているけれど、朝からご飯を作る元気はないって言ってた。



「これだ!」



 私の頭の中で豆電球が光った。もうすぐ、和くんの誕生日。その日にこっそり朝食を作ってあげて、朝優しく起こしてあげたい!


 これは私のサプライズ。そう思いついてから、私はちゃくちゃくと準備を進めていた。そう言った意味では、一番苦労したのは「家の鍵」だった。本人に「鍵を貸して」とか言うのはおかしすぎる。すぐにバレてしまう。


 そこで、あのご両親にも助けていただいてアパートの大家さんからお借りすることに成功したのだ。


ここで終わる訳にはいかない! 私はもう一度 奮起するのだった。

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