明日来る未来へ
@yuu0114
第1話
高校三年生になって、この高校での生活も残りわずかとなった。数少ない友達ともクラスが分かれてしまった。人見知りなわたしが自分から声をかけれるわけがなく、これからの一年間に対する不安からため息をこぼした。そんな時、後ろからトントンと肩を叩かれ、振り向くとサラサラとした髪をポニーテイルにした女の子がいた。
「わたし、明里。桧山明里!よろしくね。あなたは?」
「あ、え、えっと。その…」
あ、やばい。早く喋らなきゃ。うざがられちゃう。せっかく声かけてくれたのに・・・。
「焦らなくていいよ。ゆっくり、自分のペースで」
え?せかさないの?今まで会った子たちは多くの子たちがうざがってきたのに・・・。
「え、あ、ありがとう。えっと、わたしはみ、御影凛。よ、よろしくね。ごめんね、初対面だと緊張してうまく話せなくて…」
「全然大丈夫。ねぇ、凛って呼んでいい?私のことは明里でいいから」
そう言って明里は、笑顔で聞いてくれた。わたしはその笑顔に思わず見惚れ、返事が遅れてしまい、気づいてすぐコク、コクと頷いた。
その後、明里といろいろなことを話した。明里は春休みの間に引っ越してきたらしい。だから、ここにきてからの友達はわたしが初めてと話してくれた。
最初は明るい性格な明里とは対照的なわたしじゃ合わないと思ったけど、話してみると好きな漫画やアニメの話でとても盛り上がった。気がつくと緊張がとけていて、素の自分で話せていた。それに、さっきまであった不安は消えていて、これからの一年間が楽しみになっていた。
月日の流れは早く、明里と出会って、約三ヶ月が経とうとしていた。そんなある日、わたし達は学校の帰りに寄り道をして、公園のベンチに座ってアイスを食べていた。公園では子供達が楽しそうに遊んでいる。わたしはふとずっと気になっていたけれど、聞けていなかったことを聞いた。
「明里はどうして引っ越してきたの?」
そう、わたしが明里が春休みに引っ越してきたと聞いた時から気になっていたことだ。高校三年生という大学受験を控えた時期で、そんな大切な時期に引っ越してくるということは、何か大きな理由があると思っていたが、あの時はまだ今ほど仲が良かったというわけではなかったから、あまり踏み込んだ質問はできなかった。けど、今ではもう仲良くなったから少しなら踏み込んだ質問もありかなと思ったが、わたしの問いに明里はアイスを食べていた手を止め、俯き、黙ってしまった。
しまった・・・。
わたしは聞いてはいけないことを聞いてしまったに違いない。さっきまで子供達の元気な声が聞こえていたはずなのに、途端に消えてしまったように感じる。
「あ、えっと、言いたくなければ全然いいんだけどね」
シーン
明里は黙ったまま、気まずい空気だけが流れる。
あぁ、どうしよう。
そんなことを考えているうちに、そっと明里が口を開いた。
「・・・・め・・・ら・・・たの」
いつもの明里からは考えられないほど、それは小さな声でわたしは聞き取ることができなかった。
「ごめん、聞き取れなかった」
わたしが聞き返すと今度は大きなはっきりとした声で明里が言った。
「いじめられてたの」
「え・・・」
明里からでた「いじめ」という単語に驚きを隠せなかった。だって、明里はわたしとは違って、誰にでも気さくに話しかけれるし、優しくて思いやりのある子だ。そんな子がいじめられたなんて・・・。わたしの頭の中では今言われたことがループされている。そんなわたしにさらに追い討ちをかけるように、明里は衝撃的な言葉を口にした。
「実は、わたしレズビアンなの」
声も出なかった。明里は話を続ける。
「わたしには高一の秋から付き合っていた人がいたの。付き合っていたことは二人だけの秘密にしてた。ほら、人間って自分とは違うものを排除しようとするじゃん?そのことが原因で自殺した人も世の中にはいる。だから、お互いがおたがいを守るために誰にも言ってなかったの」
明里の話ていた口がふと止まった。ちらりと明里の方を見ると俯いて口元が僅かに震えていた。
不安なんだ。明里は大きな不安を抱えて話してくれてるんだ。なのに、わたしは驚いた顔のまま、ずっと下を見ていた。わたしは立ち上がり、明里の前にしゃがんで、明里の手をそっと包んだ。そして明里と目線を合わせると、明里は「ありがとう」と言って、また話し始めた。
「高二の夏、わたし達が二人で遊んでたところを見た人たちがいたの。その噂は最初はクラスだけだったのが、学年、学校全体と一瞬で広まった」
え?でも、二人で遊ぶことなんて普通にあるし、そんなことで二人が付き合っているとは分からないはずだ。
そんなわたしの心を読んだように明里が「手を繋いでいたの。恋人繋ぎで」と言った。その言葉を聞いて、合点がいった。
「そこからは地獄だった。暴力はなかった。けど、言葉の暴力があった。廊下を歩くとこそこそと『気持ち悪い』とか陰口を言われたり、それを直接言われた時もあった。それはもちろん、わたしだけじゃなく、付き合っていた子も。わたし達はいじめなんかに負けたくなくて、毎日学校に行った。けど、限界がきた。その年の終わりが近くなった時、付き合っていた子が自殺した。そこから、学校側はいじめがあったことに気づき、わたしは逃げるように学校をやめ、この学校に転校してきた」
言葉が出なかった。あまりにも壮絶な話だった。わたし達は暫くお互い黙ったままだった。そんな沈黙を破ったのは明里だ。
「ごめん、驚いたよね。今日は解散しよっか」
そう言って、わたし達はその後言葉を交わすことなく、お互いの家に帰った。
家に帰ってからも、わたしは明里のことをずっと考えている。わたしは同性愛者に対して、差別的な考えはない。でも、明日から明里にどう接すればいいのか分からない。でも、明里は勇気を出して話してくれた。だから、わたしも向き合わなきゃいけない。中途
半端はしちゃいけない。明日の朝、明里とちゃんと話そう。そう考え、決意が揺らがないよう、明里にメールをうつ。
明日の朝、話をしたいな。だから、いつもより早く学校に来てほしい。
ピピピと目覚まし時計の音で目を覚まし、学校へ行く準備をする。
ガラッと教室のドアを開けると、教室にはまだ明里はいなかった。数分後、教室のドアが開き、そっちを見ると少し不安な顔をし、俯いた明里が立っていた。
「おはよう」
明里の不安が少しでも減るよう、わたしは笑顔で挨拶をした。そうすると明里は少し顔をあげ、「おはよう」と返してくれた。少し気まずい時間が流れたが、わたしは口を開いた。
「昨日、驚いて何も言えなくてごめんね。わたしにどう思われたかとか不安になったよね。ごめんね」
わたしがこう言うと、明里の目には涙が溜まっていた。昨日からずっと我慢してたんだ・・・。
「わたしは同性愛者に対して差別的な考えはないよ。恋愛は個人の自由だと思っているから。だから、大丈夫。明里は自分らしく生きればいいよ。明里が愛したいと思う人を愛せばいいよ。世間一般で言う、普通になろうとも思わなくていいよ」
明里の目に溜まっていた涙が流れ、床に落ちた。
「わ、わたしずっと不安だった。凛に『気持ち悪い』って思われたかと思った。いつか言おうと思ってた。けど、タイミングがわからなくて・・・」
「うん、うん」
気づいたら、わたしもいつのまにか泣いていた。しばらくして、わたし達はお互いの腫れた目を見て、笑い合った。
教室に人が来始めたが、こんな姿を見せたら驚かせてしまうと考え、わたし達は保健室に行った。保健室の先生は何も聞かず、落ち着いたら教室に戻りなさいと言って、ベッドを一つ貸してくれた。そこに二人で座り、昨日の話の続きを話したりした。きっとその時わたし達は本当の意味で友達になれたと思う。
時が経つのはあっという間でわたし達は高校を卒業の日を迎えた。
「凛、卒業おめでと!」
「明里も、卒業おめでとう」
「わたし達、出会ってまだ一年も経ってないのに色々あったね」
明里が桜の蕾がつき始めた木を見て言う。
「そうだね」
そう、わたしが返事をすると明里がわたしの方を向いたのでわたしも明里の方を向き目を合わせた。
「凛、わたしと友達になってくれてありがとう。わたしは凛がいてくれなかったら、きっと今も自分が女の子を好きなことに対して悩んでいたと思う。けど、凛に打ち明けて二人で話した時、ずっと心にかかっていたもやが晴れたの。だから、本当にありがとう」
明里は涙目で少し笑いながらわたしにそう言った。
「わたしの方こそ、ありがとう。友達になってくれて。あの日、声をかけてくれて。あの時、明里が声をかけてくれていなかったら、わたしのこの一年きっと色のない一年だった。明里が優しい笑顔を向けてくれたから、ゆっくり話していいよって言ってくれたから、今のわたしがあるよ。本当にありがとう」
気がつけばわたしの頬には涙が伝っていた。
そしてわたし達は大学へ進学した。わたしはマイノリティとされるLGBTの人たちの生きやすい世の中にする心理カウンセラーになるために、明里はいじめを見過ごさない学校の先生になるために。
「凛?そろそろ行こう」
「うん」
お線香の匂いが漂う場で、わたし達は明里の元恋人、木下瑠奈さんのお墓に手を合わせていた。
「瑠奈に何を伝えていたの?」
「んー?明里と出会ってから今までのこと、かな」
「そっか。そろそろ帰ろっか」
「うん」
そう言って私たちは瑠奈さんのお墓を後にしようとした時、サーと静かだけど強い風が後ろから背中を押すように吹いてきた。わたし達は一度振り返り、明日来る未来へ歩き出した。
わたしと明里、頑張っていくので空から見守っていてください。瑠奈さん・・・
明日来る未来へ @yuu0114
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