第60話 神の真実は進み行くなり(6)

 反部長派はどうか知らないけど、部長派は弱体化した。

 向坂さきさか部長の下に残ったのは、宮下みやした副部長、小森こもり先輩、唐崎からさき郡頭こうずまち井川いがわめぐむ江藤えとう先輩、山鹿やまが先輩だけだった。フライングバーズには六〇人以上の部員がいるので、その一割は超えるとしても、二割には届かない。

 会計担当の郷司ごうじ先輩はもともと部活では向坂部長とは距離を置いていたけれど、八月予算執行停止事件で決定的に部長から離れた。もうあの2703に行くこともないという。

 部長派だったはずのトロンボーンの若林わかばやし理由りゆ先輩も脱落した。どうも、向坂部長よりも、同じパートの後輩のあの大林おおばやし千鶴ちづるのほうが頼りになると思ってしまったらしい。それはよくわかると晶菜あきなは苦笑する。

 かわりに、たこ焼き事件の河西かわにしななみ先輩が部長を支持するようになったけれど、たいして意味はなかった。

 唐崎や郡頭まち子は、自分の野望を達するために部長派にいるだけだ。向坂部長への忠誠心なんてない。だいたい部長が信用していない。

 伴奏トランペットの井川恵は郡頭まち子と何かあったらしく、たがいに嫌い合うようになった。人数の少ない部長派のなかでさらに嫌い合っているのだ。

 宮下副部長はずっとポーカーフェイスでいるし、ミーティングでは相変わらず議長を担当して反部長派の発言を封じ込めている。

 しかし、明らかに身にまとっている雰囲気は変わった。

 ほかのだれにわからなくても、晶菜にはわかる。

 晶菜もかつて副部長と同じように向坂部長に恋した女だから。

 そして、晶菜だって、もう2703に行くことはないだろう。

 行きたいとも思わない。

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