第58話 神の真実は進み行くなり(4)

 メンバーがゴール地点から控え室に戻らないうちに問題写真がネット上で拡散されていた。

 それは、瑞城ずいじょうフライングバーズのユニフォームを着た女子が、たこ焼きを食べながら後ろを振り返っている姿だった。

 もともとは、祭りに来ていたどこかのおねえさんの自撮り写真の背景に写っていただけだったらしい。それが、「この子、かわいくね?」のようなノリでそこだけ切り出されて拡散した。

 もう高校生なのだから、屋台でたこ焼きを買って食べても、それは文句を言われる筋合いではないのだけど。

 問題は、撮影されたのがまさにマーチングをやっている途中の時間だったことだ。

 「この子、何者?」

ということになった。

 手がかりはあった。その子は、たこ焼きの容器を持つ手の脇にマーチング用のバトンをはさんでいたのだ。つまり、この子はバトントワリングパートのだれか、ということになる。

 答えはすぐに出た。

 バトントワリングパートの次席、三年生の河西かわにしななみ先輩だ。

 演技の途中でバトンをすっぽ抜けさせ、沿道の植え込みまで飛ばしてしまい、それを拾いに行ってそのまま姿をくらましていたのだ。

 姿をくらまして、屋台でスマホ決済でたこ焼きを買い、食べていたらしい。

 河西先輩はマーチングの前の写真だと言い張ったけど、マーチング前にはリストランテ・フィリーネの駐車場にずっといたのがわかっているので、弁解は通らなかった。そうするとこんどはマーチング後だと言い張り始めたけど、その時間にはもうこの写真がネットに上がっていたので、それもあり得ない。

 まずいに決まっている、などと言ってお弁当を食べないから、おなかがすいて、こういうことになる。

 先輩はきっとたこ焼きの小麦粉とソースの焦げた香りに抵抗できなかったのだろう。

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