第53話 栄光を! 栄光を! 神を讃えよ!(19)

 予想していないことが起こったのは、たぶん、一時半ごろだっただろう。

 ソロトランペットの藤井ふじい佳菜かなという二年生が、廊下に出て、びっくりしたという顔で戻って来た。

 ひとこと、言う。

 「外、晴れてるよ!」

 それほど大きい声ではなかったと思う。

 しかし、その一言で、集合場所の部屋はしずまりかえった。

 ほかにも部長や晶菜あきなたちと同じように遊んでいる子もいたし、スマホを見たりスマホゲームをしている子もいた。トランペットだけは音を出して練習していたけれど。

 すべてのざわめき、すべての音が止まる。

 流れているのは、旧式で音がうるさいエアコンの音だけ。

 そして、そこに、閉めたままの換気窓から外の明かりがさあっと入ってくる。

 弱かった明かりが、照明のコントローラーを一挙にいちばん上まで上げたように、急速に明るくなる。

 夏の日射しだ。

 夏の真昼の日射しだ。

 それで狼狽ろうばいしたのが、その換気窓の下に座って大山おおやま蒼子そうこ先輩と話をしていた唐崎からさきだった。

 強がって言う。

 「へっ! こんなのちょっと晴れただけじゃねえか! また大雨に戻るに決まってるだろ? いちいちガタガタ言うんじゃねえよ」

 「でも」

と、声を上げたのは、トロンボーンの一年生で、目立たないほうの子だ。

 「三時間予報で三時間先は晴れって出てるよ」

 それをきいて、スマホを手に持っていたメンバーがいっせいに天気予報サイトにアクセスし始める。

 「あーっ、ほんとだーっ!」

 「雨雲レーダーでも、ここのまわり、ぜんぜん雨雲がない!」

 「気象庁の予報でもそうなってますね」

 「雨雲予報でもどんどん雨の範囲遠ざかってます」

 しんとしていた部屋に、あちこちからざわめきが広がっていく。

 唐崎が反論しようとする。

 「だって、いままであーんなに雨降ってて、グラウンドがすぐ乾くわけねえだろ……」

 しかしそのことばでかえってみんなが気づく。

 ここのマーチング会場はグラウンドではない。

 舗装ほそう道路だ。

 これから夏の日が照れば、アスファルトは熱くなって、一時間もしないうちに乾いてしまうだろう。

 学校でのマーチングとはわけが違うのだ。

 どんどんどん、と、また鉄の扉を叩く音がした。

 いちばん近くにいるトロンボーンの若林わかばやし理由りゆ先輩は、こんどは自分で開けようとはせず、脚を引っ込めて大林おおばやし千鶴ちづるに通り道を空ける。千鶴が立ってドアを開けた。

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