第50話 栄光を! 栄光を! 神を讃えよ!(16)

 「で」

と健康そうな夏子なつこがきく。

 じっさい、健康なのだけど。病気をしたところなんか見たことが……。

 ……いっぱい見たな。

 海水浴行って風邪をもらってきたとか、プール行って風邪をもらってきたとか、冬にサッカーやって汗かいて疲れ果てて寝てしまって風邪引いたとか、町内会のイベントで出た残りものの刺身を二十四時間後に食べておなかこわしたとか。

 夏子と晶菜あきなと、両方の家の家族でバーベキューに行って食べ過ぎて転げ回っていたこともある。

 それは、病気とは言わないか。

 で?

 「部長、どうしたんです? 元気がないみたいですけど」

 お。

 部長の様子がへん、というのは、夏子でも気づくのか。

 それはそうだ。

 生徒会時代からあいさつが得意とはいえなかった向坂さきさか先輩だけど、最初から郷司ごうじ先輩に譲った、というので、やっぱり調子が悪いのでは、とは気づかれてしまう。

 「夜更かし」

 郷司先輩は笑いもせず簡潔に答えた。

 笑いもしないが、怒りもしない。

 「また例の2703にいたんだけど」

 晶菜はやっぱりそうかと思う。意外性がまったくない。

 「あ、ここの駅前のパールトンホテルの豪華部屋ね、向坂の家、っていうか、会社が借りてる」

と言ったのは、夏子に対する説明だろう。「ここの駅前」というのは箕部みのべ駅前ということだ。

 「ふうん」

と、夏子の反応はそれだけだった。

 「寝られなかったらしくて、真夜中に宮下みやしたとわたしに招集がかかった」

 「はあ」

 こんどは晶菜が反応する。

 「招集」なんだ。

 しかも、自分が眠れないという理由で。

 「でも、わたしを呼びたいんじゃないことはわかってたんで断ったら、宮下だけ行ったらしくて、で、二人で部屋で映画見てたのかゲームやってたのか知らないけど、夜更かし」

 宮下先輩と、映画を見て、ゲームをして……。

 それだけ?

 夜に、高級ホテルのスイートルームに二人でいて、それだけ……?

 郷司先輩が続ける。

 「ま、それだけじゃないのかも知れない、って雰囲気もあって」

 先輩の言う「それだけ」と、晶菜が考えている「それだけ」は違うのか、同じなのか。

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