第49話 栄光を! 栄光を! 神を讃えよ!(15)

 お弁当は、鮭フライのタルタルソースにサニーレタス、切り干し大根、厚揚げのそぼろ煮、きゅうりのお漬物にご飯というものだった。

 女子たちの反応は両極端のあいだのグラデーションだ。

 その両極は、「まったく食べない」と「二つ以上食べる気満々」だ。

 「まったく食べない」派にも二派がある。太るから食べない、というのと、こんなところで出るお弁当はまずいに決まってるから食べない、というのだ。

 「まずいから食べない」派でいちばん目立っていたのは、バトントワリングの河西かわにしななみという先輩だ。もう一人の釘本くぎもと瑠南るなという先輩がお弁当を受け取ったのを見て

「よくそんなまずいもの食べられるねー」

と言っている。

 ことばにとげがある。ことばのひと区切りごとに棘が生えているとでもいうように。

 聞いて、別のパートの晶菜あきなまで不快になった。

 二つ以上派も、たんに食い意地が張っているだけにしか見えない子から、体育会系的に「体を作るために無理をしてでも食べる」という子までいる。

 マーチングはたしかに体力を使うけれど、そこまでして食べるものかな、とは思うけど。

 晶菜あきなはどちらでもなく、中間で、このお弁当一つが適量だ。「中庸ちゅうよう」というところだろう。夏子なつこはこれでは足りないらしいけど、二個めを要求はしなかった。

 お弁当のあと、小森こもり先輩のところに会議室机を二つくっつけてミーティングを開いた。

 もっとも、机を使って、タブレットにメモを取ろうとしていたのは去年からの部員の富貴恵ふきえさんぐらいで、小森先輩も机に近づかなかったし、ほかも机のまわりにばらばらと座っただけだ。だから、机をわざわざくっつける意味はなかったのだけど。

 しかも、内容らしい内容は

「じゃあ、演技は前に決めたとおりだから」

という小森先輩の発言だけで終わってしまった。唐崎からさきも来ていて、何か言いそうだったけど、さすがにここまで簡潔だと何も言えずじまいだった。

 けれども。

 このミーティングの意味は、ほかにあった。

 欠席者の確認だ。

 ミーティングに出て来たのは、小森先輩、郷司ごうじ先輩、椎名しいな先輩、唐崎、大山おおやま先輩、二年生の富貴恵さん、村岡むらおか総子ふさこ富倉とみくらひとみ、一年生は滑川なめかわゆいと唐山とうざんという子、それとあの歌を歌う三人、それに晶菜と夏子だった。

 さめ皓子てるこがいない。

 その鮫皓子にいやがらせを繰り返していた郡頭こうずまちまでいない。

 なんだそれは?

 歌を歌う三人娘を除いて全員が同じ振りだから、人数が減っても演技に支障が出るわけではないけども。

 そのミーティングが終わったあと、晶菜と夏子は郷司先輩に呼ばれた。

 廊下に。

 控え室のなかには聞かせたくない話なのだ。

 ここは一階で、廊下から外の歩道が見える。

 見えるはずだ。

 ところが、そこは一面が白くて、ざーっ、しゃーっという音だけが響いて来る。

 ゲームに出て来るモンスターの威嚇いかく音がずっと続いている感じだ。

 雨がそれだけ激しいらしい。

 廊下にも湿気が満ちている。壁は一面が結露していた。

 「郡頭まち子と鮫は連絡してみた」

 郷司先輩が手短に言う。

 「郡頭まち子は移動中、鮫からは反応なし。いちおう見てはいるらしいけど」

 軽く肩をそびやかす。

 「まち子も、自称移動中だけど、ほんとのところはどうだか」

 郷司先輩が大げさにため息をつく。

 こういう密談っぽいものに慣れていない夏子が明るい声できく。

 「さぼりですか?」

 「中止になると思って家で寝てるんじゃないの?」

 そういうことか。

 いちおう出ては来た唐崎よりたちが悪いかも。

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