第47話 栄光を! 栄光を! 神を讃えよ!(13)

 集合時刻の一二時を五分ぐらい過ぎたところで、向坂さきさか先輩、宮下みやした先輩と郷司ごうじ先輩がホワイトボードの前に並んで立った。

 晶菜は呼ばれなかったので、行かなくていいのだろう。

 部長、副部長、会計が並んで立っても、ほとんどだれも注目しない。

 表に近い、あの合板の板のところでは、唐崎からさき仁穂子にほこ大山おおやま先輩がいっしょに話をしている。唐崎が何か言うと、大山先輩が体を折り曲げて大笑いしていた。

 その合板の板はごーっという音を響かせる。雨粒の音だ。打ちつける音だけではなく、表の歩道からも耳障りなノイズとして雨音が大きく聞こえてくる。

 しかも、その合板の板には水がしみている。下には水たまりができはじめているのだが……。

 そのすぐ近くにいる唐崎や大山先輩は気がつかないらしい。

 「はーい!」

 その雨音に負けない大きい声を立てたのは、反部長派の遠山とおやま先輩だった。続きは、やっぱり反部長派の久喜くき先輩が言う。

 「部長のお話だよ。ちゃんと聴こう!」

 久喜先輩の声は、その姿にも似てふわふわしているのだが、ふしぎと通りはいい。

 さて。

 反部長派が部長の話を聴くように、と呼びかけているのだが。

 どういう意図があるのだろう?

 部長にろくな話はできないだろうから、その様子をみんなに見せつけて恥をさらさせよう、という、意地の悪い意図なのだろうか?

 それとも、こういう大きなイベントでぐらいは、部長派‐反部長派なんていう対立は乗り越えよう、ということなのか?

 どちらだったかはわからない。

 ただ、結果として実現したのは「前者」のほうだった。

 「あ、いや」

 おおぜいの中で二人だけ私服の一人、部長は、その美しい茶色っぽい髪をぶるぶるっと震わせた。

 「あ、郷司、話して」

 ……副部長の宮下先輩も飛ばして郷司先輩なのか!

 部長が何も話せない状況があるとしたら、普通はかわりに立つのは副部長だろうと思う。

 しかも、その宮下副部長は、いつものポーカーフェイスで部長の横に立っているというのに。

 「あ、ということなので」

 郷司先輩がすかさず言ったのは、向坂先輩へのヤジとか笑いとかが起こる時間を与えないようにするためだろうか。

 だとしても、あちこちから笑いは起こった。

 それも、笑ったのは、反部長派ばかりではなかった。

 少なくとも、部長派のはずの若林わかばやし理由りゆ先輩はははっと笑い声を立てて、横から大林おおばやし千鶴ちづるににらまれていた。ところが、その若林先輩の笑いは先に一年生に伝染していて、トロンボーンの二人の二年生もおもしろそうに笑い声を立てた。

 まあ。

 状況を知らなければ、晶菜あきなだって笑うよね。

 ちなみに、唐崎からさきはぜんぜん話を聴いていないので、笑いもしない。

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