第43話 栄光を! 栄光を! 神を讃えよ!(9)

 金曜日には雨はやんだ。

 だから金曜日に練習ができたかというと、そうではない。

 持ち運びのできない、または、できるとしてもしないほうがいい大型の楽器をトラックに積んで搬出するのが金曜日の仕事だった。

 それでも、井川いがわめぐむのいるトランペットや、大林おおばやし千鶴ちづるのいるトロンボーン、反抗的だからと向坂さきさか先輩が嫌っているホーンセクションなどは、楽器をトラックに積んでいないので、練習教室を確保して練習していた。バトントワリングもグラウンドの向こうの端で集まって何かやっている。

 そこで、当然、カラーガードもパート練習ぐらいはしたほうがいいのだろう。

 本番に使うポンポンはトラックに積んでしまったけど、ビニール紐を切って束ねたような練習用ポンポンは使えるのだから。

 ところで、唐崎からさき仁穂子にほこの「もさもさ」という言いかたは、この練習用ポンポンの実態をよく言い当てている、とは思うのだが。

 しかし、当然、カラーガードのパート練習はなかった。

 だれもその唐崎仁穂子といっしょに練習なんかしたくない。

 これで、郡頭こうずまち小森こもり先輩に「やっぱり練習をやるべきです!」と言えば練習になったのだろう。小森先輩はまち子の言いなりだから。でも、まち子もそんなことは言わなかった。

 郷司ごうじ先輩も言わない。郷司先輩は練習不足は気にしているはずだけど、少し前まで「会計の仕事に専念するのでマーチングには出ない」と言って練習に来ていなかった手前、いきなり「練習をするべきだ」も言えなかったのだろう。

 そして、金曜日、家に帰ってみると、ちょうど天気予報が

「今日の深夜から明日にかけて雷を伴う激しい雨となりそうです。梅雨末期の大豪雨となりますので、土砂災害などの大きな災害にじゅうぶんに警戒してください」

と言っているところだった。

 日の長い一日がようやく真っ暗になるころに少しだけ雨が降り出した。でも、それは、服が湿るのを気にしなければ傘をささずにいられるくらいの弱い雨だった。

 晶菜が寝たのは夜の一二時ごろだった。そのときにはもう少し強い降りになっていたけど、大林千鶴が上半身までずぶ濡れになっていた雨よりはずっと弱かった。

 明日のマーチングは行えるのだろうか?

 晶菜あきなは「微妙なところ」だと思う。

 これより強くなれば中止だろう。

 降り出したころの小雨にまで戻れば、決行されるかも知れない。

 雨の勢いがこのままだと、やっぱり中止だ。

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