第38話 栄光を! 栄光を! 神を讃えよ!(4)

 しかも、数が多い。

 何かの襲撃だろうか?

 たしかに、屋上は逃げ場がないのだけど。

 でも、屋上は広いので、逃げ回っていればなんとかなりそうな気もする。

 しかし、恐れはすぐに「既視感」に変わった。

 何のときに感じた感覚だろう?

 下から上がってきたのは、どちらかというと体の小さい女子たちだった。

 透明のビニール傘を持っているのが一人、続く三人は色つきのビニール傘を持っていて、最後から赤い普通の傘を持った生徒が上がって来る。

 透明のビニール傘を持った先頭の元気娘が、晶菜あきなには

「よっ」

と男の子みたいな声をかけ、郷司ごうじ先輩にはきちんと向き直って礼をしている。

 大林おおばやし千鶴ちづるだ。

 「先輩」

 晶菜が小さい声で言う。

 「またこのパターン?」

 得意げな返答が返る。

 「雨降ってなきゃやらないつもりだったけどね」

 そう話している横を

「先輩、こんにちはー」

「こんにちは」

「せんぱーい、こんにちわーっ!」

とそれぞれの性格を反映した声をかけながら、一年生が屋上に出て行く。最後の子の甘ったるい声がとくに耳に残った。

 大林千鶴は上履うわばきのままだったけど、一年生は、雨の降っているところに出たところで靴を履き替え、傘をさしている。

 それぞれの傘の色と靴の色が同系色で揃っている。前列向かって左が赤、向かって右が黄色、後ろが緑だ。靴の色は、赤は葡萄ぶどう色で原色に近いけど、あとは原色というわけに行かず、黄色の子が明るいキャメル、緑の子は紺だ。

 カラーガードの一年生たちだった。

 晶菜が小声で郷司先輩にきく。

 「どうして雨降ってなきゃやらないって?」

 「だってばれるじゃん?」

 ……やっぱり秘密にしておきたいのか。

 まあそうだろうけど。

 「最後の練習が終わるまで言わないって向坂さきさかと決めた」

 雨が降ると信じている唐崎からさきはともかく、郡頭こうずまちは、このプランを知るとつぶしにかかるかも知れない。

 プランそのものを、ではなく、一年生たちを。

 郷司先輩が続けて何か言おうとしたところに、最後に上がってきた生徒が晶菜の横に立つ。

 「若い子は元気だね」

とハスキーな声で言う。たぶん三年生だ。

 持って来た赤い傘をさして、晶菜の横に並んで立った。

 靴はエナメルの赤い靴を最初から履いていたらしい。

 ……校則違反では?

 「二人とも初めまして、かな」

 その三年生が言う。

 声はハスキーなのだが、どことなく「地」から浮いた声、という感じがする。

 つまり「地声」ではない感覚が。

 いや。会ったことあるぞ。このひと。

 「ああ。アイドル研の」

 郷司先輩が百パーセント「地」に足のついた声で言う。

 ああ。そうだ。

 ときどき生徒会室に来ていた。

 「はい、西島にしじまももです」

 そのアイドル的なあいさつに郷司先輩は取り合わない。

 「今回はいろいろと世話になる」

 「いいえ」

 西島桃さんは笑う。これも、「地」から浮いた笑い、演技スマイルだ。

 「ところで、生徒会の生徒団体登録種別の変更申請は、やった?」

 登録類別の変更というのは「同好会」から「部」への変更のことだ。晶菜はよく知らないけど、たぶん、アイドル研はいまでも「同好会」のままなので、部への種別変更を希望している、ということなのだろう。

 でも、その申請の手続きはかなりめんどうだったはずだ。しかも生徒会が承認する可能性は低い。

 というわけで。

 完全に「地」でしゃべっている郷司先輩の生徒会事務話に迫力がある。

 「ああ。あれは二年生の白坂しらさか美樹子みきこの担当で」

 桃さんは話から逃げるときも演技的なせりふ回しだ。

 「そうやって人任せにすると、いつまでも目的達成できないよ」

 郷司先輩の言いかたが厳しい。

 向坂先輩や晶菜、宮下みやした先輩はもちろん、小森こもり先輩や山鹿やまが先輩にもこんな言いかたはしない。

 西島桃さんは「へへっ」と笑った。

 軽薄な「へへっ」でもなく、かといって「まじめに受け止めてます」という感じの「へへっ」でもない。

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