第29話 2703(7)

 まち子との関係を言うのもめんどうなので、かわりに、別のことを聞いてみる。

 「向坂さきさか先輩は、あの雨乞あまごい、効くと思います?」

 「効かないよ、残念だけど」

 やっぱりそうか。

 「あんなので一〇万七八〇〇円なんて」

 よく覚えている。

 「まあ、わたしは、母親の商売って見てるから、そういうのがある、っていうのにはぜんぜん驚かないけどね。高いおカネ払ったら、その見返りが何もなかった、なんて、よくあることとは言わないけど、ときどきはあることだから」

 このスイートルームはその先輩のお母さんの会社が借りている場所だ。いま先輩が言ったような、虚々実々の駆け引きが、いま晶菜が座っているフロアで繰り広げられているのだろう。

 「あのお姉さん、自分で体力使って踊ってくれただけ、まだまし、ってところかな」

 ネフェルティティさんのことだろう。

 あの踊りを見て、自分たちもいっしょに踊ったのが一〇万円か。

 七人いたので、一人あたり一万五千円のダンス体験料。

 それが高いのか安いのか、晶菜あきなにはわからない。

 晶菜が指摘する。

 「昨日のパートミーティングでも、唐崎からさきが」

 晶菜のほかには向坂先輩しかいないのだから、呼び捨てしてもいいだろう。

 「「演技の立て直しなんかむだむだ、どうせ雨降るんだから」って言って。でも、一年生も含めて、だれにも雰囲気伝染しなくて」

 最初の「カラーガードはどうなの?」の問いへの答えだ。

 向坂先輩がおもしろそうに言う。

 「それで、唐崎がよけいにいきり立つ、ってパターン?」

 「そのとおりです」

 向坂先輩は、そのキウイのジュースをテーブルに置いた。

 言う。

 「成功すると思う?」

 つけ加える。

 「その、雨乞いじゃなくて、カラーガード」

 晶菜は即答した。

 「無理です」

 こう言うと、向坂先輩は傷つくだろうか?

 でも、宮下先輩が甘い嘘を伝えるのに対抗するために、晶菜はここに来たのだ。

 そう言うしかない。

 さっきの大林おおばやし千鶴ちづるの話を思い出す。

 「楽器は、問題があっても、なんとかはすると思うんです」

 大林千鶴は、吹けない若林わかばやし理由りゆ先輩には、吹くまねだけをさせて、そのフレーズは千鶴自身が吹くと言っていた。

 そういう細工があちこちで行われているのかも知れない。

 でも、一人ひとりが体を使って演技するカラーガードで、同じ方法はとれない。

 「バトントワリングのことはよくわかりませんが、言ってしまえば、カラーガードだけが仕上がりがとくに悪い、って結果で」

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