第20話 雨が降っている(8)
「
「えーっ?」
晶菜は悲鳴のような声を立てた。
わざと、だ。
向坂先輩の呼びかたが「
練習に出ないのも、いいことにしよう。
しかし……。
「2703」というのは、
向坂先輩の家は会社を経営している。その会社がずっと借り上げているという。会社の商談や接待で使うためだが、そういうことで使っていないときは、先輩が自由に使える。
たぶん、今日の放課後、先輩はその部屋にいることが決まっているのだろうけど。
「ただし」
と、
「
「だったら」
べつにその「2703」に行きたくないわけではない。
むしろ、パールトンホテル2703室に一人で入れる機会を晶菜は待ち焦がれてきた。
でも、郷司先輩の意思は確かめたい。
「先輩が最初から説明すればいいじゃないですか?」
「
簡潔に言う。
「朱理」というのは、副部長の
晶菜は黙っている。
郷司先輩が言う。
「あの日、わたしは朱理にカラーガードに限らず「パートの仕上がりはどう?」って尋ねたでしょ?}
「あの日」とは、あの
「はい」
と晶菜があいまいに答える。
たしかに、郷司先輩はそんなことをきいたと思うけど。
「そのときの朱理の答えと、さっき、わたしが大林にきいたときの、大林の答えと較べて、どう?」
「どう?」と言われても。
晶菜は覚えていない。
「その、大林のほうが具体的だったと思いますけど?」
しかし、それは、楽器を演奏しない宮下副部長と、自分で楽器を演奏する大林
四月に就任した部長と副部長のうち、部長の向坂先輩はその「ドラムメジャー」としてマーチングを指揮するけど、副部長の宮下先輩はマーチングには出ない。楽器も演奏しないし、カラーガードやバトントワリングで演技もしない。ミーティングで議長になって、反部長派のメンバーに発言させない、というのが主な役割だ。
楽器を演奏する千鶴のほうが具体的に詳しく話せる。
それだけのことでは?
「朱理は、低音は問題なし、バトンとトロンボーンは、具体的な言いかたは忘れたけど、三年生はダメだけど二年生が引っぱるからだいじょうぶ、みたいな言いかただった」
「はい」
郷司先輩はよく覚えていると思う。
そして、トロンボーンについて言っていることは、大林千鶴の言うのと一致している。
「朱理がトランペットとパーカッションについて言わなかったのは、あの場に
井川恵と江藤
「ほか、何か気づかない?」
「はい?」
気づくとか、気づかないとか、そんなことを言えるほど、晶菜は詳しく聴いていない。
楽器のことはよくわからないのだ。
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