第11話 遥か昔のエジプトの儀式(5)

 ネフェルティティさんの

「はい」

という合図とともに音楽が変わった。どん、どんどん、ぱん、というパーカッション中心の音楽になる。

 あの山鹿やまが先輩の率いるバスドラムパートよりリズムがしっかりしている……。

 機械で作った音だから、当然かも知れないけど。

 ネフェルティティさんは、いつどこから出したのか、両手にかねのようなものを持って、それを両手で合わせて甲高かんだかい音を立てている。

 鉦なのか、小さいシンバルなのか。

 その音でリズムを取りながら

「はい、天。はい、両手で円ですよ。はい、体の動きをはっきりと。はいはい、あなた、もっとこう、体の中心に」

 全員のまわりを、膝を曲げてまわりながら、指図する。

 「はい、雨。上からざあざあざあざあ。はい。雨降ってほしいんでしょ? もっと大きく降るように。もっと大きく。もっと大きく! はい。あなたのは降りが雑すぎます。それは暴風雨でしょ?」

 言われているのは大山おおやま先輩かな?

 このひとなら暴風雨になりそうだ。

 「はい、その雨を受け止める大地」

 ネフェルティティさんはまわりを回り、その鉦でリズムを取りながら、全員に指図を出す。

 「はい、今度は大地からの生命力。大地からいのちがき上がり伸びるイメージ。そうそう。力強く。いやいや。あなたそれは爆発でしょう? 生命が伸びるのに爆発して飛び散ったら何にもならないわ。はい。それでは、わたしがシンバルを大きく「かん!」と鳴らしたら動きを変える。はい、では行きますよ」

 音楽の、そのパーカッションのリズムに乗せて、「ぶぉぶぉぶぉぶぉ」という低い音が重なる。今度はふしぎとメールの着信音がしない。

 ネフェルティティさんの指図に従って、七人の少女たちは、立つ場所を変えながら、その動きを繰り返した。

 晶菜あきなは十一回めぐらいまでは回数を数えていたけど、そのあとはわからなくなった。わからなくなった、というより、どうでもよくなったのかも知れない。

 みんなが動きに慣れてくると、ネフェルティティさんは、みんなのまわりを回っているものの、もう指図はせず、

「シャーイシャーイシャーイシャーイ!」

を繰り返し、「シンバル」を叩きながら数珠じゅずをがちゃがちゃ言わせる。最初は身をかがめて小走りしているだけだったが、そのうち、感極かんきわまったように

「はっ!」

と気合いを入れ、手を上に上げたり、脚を上げたりするようになった。ぐるぐる回る、赤と青と黄色のスポットライトが、今度は晶菜たちの頭上を照らす。

 「はい終わりっ!」

 ネフェルティティさんが鋭い声を立てて両手をぱっと上に上げところで、その儀式は終わったらしい。

 終わったのはいいのだが。

 ネフェルティティさんがその姿のままポーズをとっているところに、ひさしぶりに「ぽんぽんぽんっ」とメールの着信音があった。

 今度は、こちら側でも何人かが笑い声を立てた。

 ネフェルティティさんは恥ずかしがるようにそそくさと薄っぺらいプリント布の向こうへと出て行った。

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