第8話 遥か昔のエジプトの儀式(2)
つん、と鼻に
悪いにおいというわけではない。花の
後ろで、ぱちっ、と音を立てて扉が閉まった。
「悪い場所に連れ込まれて帰れなくなった」という感覚が確信に変わる。
ここまで来たらしようがない。
しかも、このグループでは、晶菜は下っ端だ。
何かあったとして、
晶菜は部屋を見回した。
四面の壁にエジプトのヒエログリフを書いた幕が
明らかにプリントした生地で、よく見るといくつかのパターンの繰り返しだ。
これはエジプトで買ったものでもなんでもないな。もしかすると、それらしく図案を組み合わせただけで、ほんとうのヒエログリフではないのかも知れない。
まんなかには
エジプトでアラビア文字を使うようになったのも、トルコ人がエジプトの近くまで来たのも、古代エジプトよりは後の時代なんだけど、言ってもしようがなさそうだ。
せいぜい警戒されるだけだろう。
言われたとおりそのトルコランプの下に座ると、そのひげの男の人が一人ひとりに頭からヴェールをかぶせた。しかもそれを幅の広いゴムバンドで頭に留められる。
前は見えるが、横の視界がさえぎられるので、ほかのメンバーが何をしているかが見えない。
「では、古代エジプト、アメンホテプ流の雨乞いを始めます。儀式中は常に導師様の指示に従い、指示があるとき以外はできるだけ身動きしないように。脇見などけっしてしないように」
隣を見て不安を解消することができないようにするのが目的だろう。
いよいよ怪しい。
照明が消えて、部屋は真っ暗になる。
「きゃっ」と声を立てたのはだれだろう?
まさかとは思うが……唐崎
冗談ではない。唐崎仁穂子がこの雨乞いをしようと言い出したのだから。
晶菜は、どうせこういう展開だろうと思っていたので、驚かない。
男の人がヒエログリフの幕の向こうに下がる。
「ぶおー」と低い音が流れ始める。低音の楽器とも、人の声ともとれる。たぶんパソコンか何かで合成して作った音だろう。
ヒエログリフの幕の向こうに明かりが灯る。そのおかげで、その幕が、ぺらぺらのポリエステルか何かだというのがわかってしまう。
情けない……。
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