第5話 雨乞い計画(5)
「カラーガードの仕上がり、って問題になってるけど、ほかのパートはどうなの?」
ほかのパートと言っても、ここにいるのはトランペットとパーカッションだけだけど。
いきなり何かが飛んで来たトランペットの
フライングバーズのトランペットパートは二種類に分かれている。ソロを吹いて目立つ機会のあるソロトランペットと、伴奏しかさせてもらえない伴奏トランペットとの二種類だ。
で、ここにいるトランペットの二人はどちらも伴奏パート、しかも、二年生の井川恵が伴奏パート首席、三年生の江藤先輩が次席だ。
しばらく目を見合わせてから、背の高い江藤先輩が言う。
「トランペットは問題なし」
しかし、部長の
「どうなの、井川?」
ときく。江藤先輩は軽く不愉快そうにしてうつむいた。
井川恵が
「ソロパートは問題なしです。ソロのセカンドの
と、具体的に名まえを挙げて言う。
「その片倉って」
と
「中間テストの成績、下から数えたほうが早かったらしいけどね」
そしてくすくすっと笑う。
この子の笑いはいつも「百パーセント笑っている」という感覚がない。百どころか、笑っているときの「笑い成分」は五十パーセントも行っていないだろう。
残りのパーセンテージで、いつも何か別のことを考えている。
それにしても「別のパートの一年生に対してそんなライバル心を持ってどうする?」と思う。
ライバル心なのか、嫉妬なのか知らないけど。
この片倉菜々という一年生はたしかに一度会ったら忘れられない印象が残る子だ。「かわいさ」を構成するいろいろな要素のバランスがとれていて、互いに強め合い、「かわいい」と思わせてしまう。不美人が着ると徹底して不美人に見えてしまう
宮下副部長が
「学校の成績はいまは関係ありません」
とまじめに注意した。
それより「処置なし」と切り捨てられた相馬という子は、ほうっておいていいのだろうか?
「じゃ、パーカッションは?」
「ああ、問題なしですー」
山鹿先輩のとてもさわやかな声が響く。
でも、たぶん、だれも信頼していない。
山鹿先輩は、バスドラムの首席でありながら、パーカッションパートをまったくコントロールできていない。自分の楽器すらコントロールできていない。
「山鹿、さ」
向坂先輩がうつむき気味で上目づかいで山鹿先輩を見る。
「
遠山
「あ、いや、久喜さんはパーカッションじゃなくて低音ですしー」
と山鹿先輩が明るい声で切り返す。向坂先輩が不満そうに山鹿先輩を見た。郷司先輩が
「いまは、仕上がりだけを問題にしよう」
とその話を止める。
早く切り上げたい。
郷司先輩が続ける。
「で、宮下、ほかのパートは、あんたから見てどうなの?」
「低音も問題なしでしょう。トロンボーンは二年生が指導してなんとか、ってところで、あと、バトンは、ここも二年生がレベル高くて一年生を引っぱってるようですけど、
こうやって言いにくいことも「しゃあしゃあ」と言ってのけられるのが、この宮下先輩の「いいところ」かも知れない。
河西先輩というのは、こういう集まりをするとごくたまに出て来る三年生だ。部長派か反部長派かというといちおう部長派で、スタイルは抜群にいい。でも、練習態度は抜群にふまじめで、技術も低いらしい。
「つまり、カラーガードがいちばん仕上がってない、ってことだよね?」
郷司先輩が言って、ここぞとばかりに
「てめ……」
唐崎は何か言いたいようだけどそこで声が止まった。さっき郷司先輩にケンカを売ろうとして受け止められたのを気にしているらしい。
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