第4話 雨乞い計画(4)

 「あの」

と、先輩の言い合いのあいまに、二年生のさめ皓子てるこがことばをはさんだ。

 この子も痩せているし、背も高くないが、唐崎からさきのように体が小さい感じはない。

 「健康痩せ」というのだろう。

 「鮫、なに?」

 部長の向坂さきさか先輩がその鮫皓子のほうを見る。

 「カラーガード、全員が出場しなくても、演技に自信のあるメンバーだけの出場でいいんじゃないですか?」

 すばやく反応したのが同じ二年生の郡頭こうずまちだ。

 「鮫だけに人を食った意見だね」

 鮫皓子も反発する。

 「ひとの苗字、ネタにするのやめてくれる?」

 郡頭まち子が言い返した。

 「じゃあ、そういう人を食った意見もやめなよ」

 二人は黙って、顔をそむけたまま、目だけでにらみ合う。

 一か月くらい前までこの二人はとても仲がよかった。ところが、最近、まち子がいやみを繰り返し言うようになり、雰囲気が悪くなっている。

 何かあったのだろうけど、何があったのか、晶菜は知らない。

 知りたくもない。

 まち子は部長のほうに顔を上げる。

 「カラーガードはマーチングバンドを代表するポジションです。出場するなら、その人数が揃わないなんてあり得ません」

 向坂先輩が軽く眉をひそめ、唇を軽く閉じた。その様子を郡頭まち子はじっと見ている。

 しばらくそうやって見つめ合い、やがて、

「わかった」

と向坂先輩が言った。

 後輩の言うことに「わかった」もないだろうと思うのだが。

 宮下みやした副部長が郡頭まち子のほうに顔を向けて鋭く言う。

 「また、フラッグを使う、っていう、その相談をしたいわけ?」

 カラーガード首席の小森先輩が「いやん」と「きゃっ」の中間の声を立てる。

 まったく色っぽくない。

 「いやん」でも「きゃっ」でももっと色っぽくていいはずなのに。

 この小森先輩を形容することばは「背が高くて、体に中途半端に贅肉がついていて、動きがのろくて、ぶざまな少女」だ。晶菜は「相応の嫌悪感」を感じている。

 しかし、「相応の」ということは、そこまでしか嫌悪感は感じない、ということでもある。だから、小森先輩が嫌いかというと、そうでもない。

 ただ、その「形容することば」と、カラーガードのリーダーの適性との相性は悪い。相性がいいのは「背が高い」ということだけだろう。

 そのうえ、自分の考えをはっきり言わない。

 いまだって、「フラッグを使うっていう相談?」と言われれば「それは無理です」とはっきり言えばいいのに。

 カラーガードというのは、本来はフラッグという大きい旗を使って演技する部門だという。郡頭まち子はその本来のカラーガードの経験があると言って、フライングバーズでもフラッグを使うべきだと主張したことがある。

 いま、宮下副部長がきいたのは、またその主張を繰り返すのか、ということだろう。

 郡頭まち子は

「いや、そういうわけじゃ……」

とことばを濁した。

 小森先輩が、ほっ、と息をつく。

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