第2話 雨乞い計画(2)

 唐崎からさきが言う。

 「知らないのかよ。だからンの神様、とか言ってるんだと思ってるだろ、おめえら!」

 そういう発想があるのか。

 ぜんぜん気がつかなかった。

 そのアメン神のことは世界史で習った。

 たしかに古代エジプトで信仰された神様で、たとえば「ツタンカーメン王」もほんとうは「トゥット・アンク・アメン」といい、その名のなかに「アメン」というこの神様の名が入っている。また、アメン神は「アンモン神」とも呼ばれ、羊のようなつのを持つ神様と信じられていた。そのアメン神の角のような石、という意味で「アンモナイト」ということばが生まれたともいう。まだアンモナイトの正体が「殻を持つタコやイカの仲間の化石」とわからない時代のことだ。

 この教室で、椅子に座っているのは郷司ごうじ先輩だけ、部長の向坂さきさか先輩は机に腰を乗せていて、その横に宮下みやした副部長が立っている。

 その全員が、いまの唐崎のことばに対する反応にまた困っている。

 その三人に向かって、唐崎は勝ち誇って言い続ける。

 「いいか? 古代エジプトで最高に」

 「に」と言って、強調したのか、たんにいばっただけなのか。

 「信仰された神様には、アメン神とラー神があるんだぜ。ラーは王家を守護する太陽の神様だから、アメンは雨の神様に決まってるだろうが。古代エジプトは多神教だから、神様のあいだにも役割分担があるんだよ!」

 どういう理屈だろう?

 役割分担があるとしても、太陽の神様とペアになるなら、たとえば月の神様とか、大地の神様とかではないか?

 「話、元に戻すけどさ」

 郷司先輩が言う。

 「出場辞退が認められないから、イベントを中止にしたくて、イベントを中止にするために雨が降ってほしくて、雨を降らせるために雨乞あまごい、って、無理すぎない?」

 「しようがねえんだよ、バカ」

 唐崎が言い返す。

 「バカ」とはよく言ったものだと晶菜あきなは思う。

 ここに集まっているのは、瑞城ずいじょう女子高校の名門部活、マーチングバンド部「瑞城フライングバーズ」のうち、部長・副部長・会計とそれを支えるメンバーたちだ。つまり「幹部」だ。

 晶菜もいちおうその幹部グループにつながっている。

 ところで、いま、そのフライングバーズは、その幹部に反抗的なメンバーを大量に抱えている。

 そのせいで、か、どうかは知らないが、ここでは「そのせいで」ということにしておこう。

 そのせいで練習がちっとも進んでいなくて、いま現在の仕上がりは最低レベルだ。

 そのフライングバーズは、毎年、県央けんおうの中心都市箕部みのべで開かれる「箕部しろまつり」という大きなイベントに出場することになっている。

 いま、その城まつり本番まで二週間を切っている。

 仕上がりが最低レベルのこんな状態で出場はできない、というので、幹部たちは城まつりへの参加を辞退することを決めた。

 ところが……。

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