遥か昔のエジプト精神

清瀬 六朗

第1話 雨乞い計画(1)

 「で」

と、郷司ごうじ先輩は顔を上げて、部長の向坂さきさか先輩の目をまっすぐに見た。

 「雨を降らすのは誰?」

 「誰」を漢字で書くのが似合う、鋭い言いかただった。

 向坂先輩はことばに詰まる。口を軽く閉じた頬がクリーム色で、滑らかだ。

 「そんなの決まってるじゃねえか」

 向坂先輩の横から唐崎からさき仁穂子にほこが言う。

 こいつも「先輩」なのだけど、こいつに対してはどうしても「先輩」をつける気になれない。

 唐崎の父親は蒲沢かんざわ総工そうこうという大企業系の金融商社の幹部、母親は神奈川県の大地主の出身らしい。東京育ちだということを自慢にしていて、何かあると江戸弁でいばりたがる。

 ただ、体が小さいのがコンプレックスらしい。

 たしかに、一学年下で中ぐらいの晶菜あきなとたいして変わらない背丈だ。

 本人はおなかのところがすっきりしていると自慢する。それをキープするためにどんなに努力しているかを自慢する。

 でも、客観的に見れば、ただ痩せていて貧相なだけだ。

 身体を使って演技するカラーガードとしては不利な体型だろう。

 その体の小さい唐崎仁穂子が体をせいいっぱい反らして言う。

 「だよ」

 あっけにとられたのは晶菜だけではないらしい。

 だれも、何も言わない。

 七月、試験返却期間が終わって、補習と、難関大学進学を目指す生徒のための講座以外の授業がない時期だ。

 北校舎二階の家庭科実習室第一室は、窓が北向きで日は射さないけど、外は晴れていて、明るい。

 この教室は、本来は、調理したものをお客様に出すという設定でできている。その接待のしかたを実習で確認するための教室だ。だからキッチンつきで、ちょっとした料理をしたい生徒がこの部屋を借りて使うことがある。

 でも、いま、このメンバーがここに集まっているのは、料理するためでもお客様の接待を学ぶためでもない。

 この会合を秘密にしておくためだ。

 どうやって「箕部みのべしろまつり」のパレードに参加せずにすませるか。それを討論するための会合を。

 部室を使うと、部長に反抗的な部員が来るかも知れない。反抗的な部員に察知されれば、たとえ「城まつり不参加」という目標を達したとしても、部長の権威は失墜する。

 ただでさえ分裂含みの部の統制は効かなくなる。

 だから、この会合は秘密にしなければならない。その秘密を守るためにこの教室を借りた。

 この教室のあたりは特別教室ばかりで人通りが少ない。部室になっている教室もない。とくに、授業のない今の時期、生徒はだれも来ない、というので、教室をここに決めた。

 そういう事情なのだが……。

 沈黙のあいだにも、その教室には窓の外から昼間の明かりが惜しげもなく降り注いでいる。

 そのまま時間が経つ。

 時間が経っても、だれも、何も言わない。

 唐崎は、その反応に

「へっ」

と笑った。

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