【魔法×YouTuber】底辺魔道士ぼやき配信してたら、精霊のイイネで魔力が超インフレ!そして聖者になるチエリーさん【悩み解決・村落防衛・ダンジョン攻略】
第56.5話 番外編3 ††† 闇の小話その3 †††
第56.5話 番外編3 ††† 闇の小話その3 †††
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この話はいわゆる番外編その3だ。
モコッチ村でエルフ娘のハルカと過ごしているときの話なのだが、まあまあくだらないので語ることをためらっていた。
私の趣味に傾きすぎて、多くの読者が逃げ出す懸念があった。
でも、せっかくだから語ってみたくなった。
ここまでついてきてくれた読者なら、許してくれるだろうと信じている――。
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モコッチ村で魔物討伐を終えた私は、少しの間村に逗留することになった。
ハルカ・モコモコーナが私に弟子入りをしたいというので、
「それならまずは国立魔法学園の受験だな!」
と言って、軽く勉強を教えることになったのだ。
「はい、
私は食卓の椅子に座り、料理中のハルカに問題を投げかけてみる。
ハルカは鍋をかき回すへらも止めずに、ささっと答える。
「
うむ、なかなかやるな。
ではこれはどうだ?
「魔物が3匹いました。生命力50と生命力100と生命力150、合わせて生命力はいくつ?」
「えっとえっとえっと~~、にひゃ……300!」
「倒すのに必要な魔力は?」
「同じく300!」
ハルカは鍋をかき回しながら微笑んだ。
金色の髪にエルフ耳をした素朴な少女は、実に飲み込みが早かった。
森の外の学校で算術を習っているとのことで、かけ算も知っているし、基礎的な力があるのがよかった。
どこかの予備校の脳筋生徒たちとは違うなあ~~。
などと感心しつつも――。
その日の私は心が浮ついていた。
ちらり、と居間を振り返る。
私は、ハルカの家の本棚が気になって仕方がなかった。
そこには、何という偶然だろうか。
私が暗い青春を捧げた、闇のベストセラー小説が置いてあった。
金文字の刻まれた背表紙が、私の目を捉えて離さない。
『新訳・虚月零日~闇曜日の
いつ見ても心震えるタイトルだ。
タイトルが既に詩のようではないか。
ちなみに『無巻』というのは第0巻という意味のオシャレな表現だ。
この他にも、亞巻、異巻、宇巻、春巻、などがある。
この小説は前世持ちの転生者の物語なのだが、その内容のあまりの素晴らしさに、読んだ子ども達が悪影響を受けて、王国中で転生者を名乗りだした事件があった。
私ももちろん転生者を名乗ったし、前世の妄想話を得意げに披露して、村人に馬鹿にされたものだった。
そのときの悔しさ、恨み、人間不信は当時の子ども達に染み渡って、謎の選民意識となって人格形成を大いにゆがめている。
私のゆがんだ闇も語り出すと長いのだが、いったん置いておこう。
今重要なのは、
ひょっとして、彼女もこの小説の愛読者なのだろうか?
だとすると、興奮する。
前世の名前や前世の暮らしぶりを語り合う、妄想エピソードトークで盛り上がれるかもしれない……!
「チエリーさん、ニヤニヤしてどうしただ?」
ハルカが怪訝そうに私の顔を覗き込んできた。
「あっ、ううん。何でもない!」
私は慌ててごまかした。
「居間が気になるだか? やっぱり田舎の居間はみすぼらしいだ?」
ハルカは誤解して傷ついているらしい。
これはよくない。私は正直に答えることにした。
「いや、何でもないというのは嘘だ――。私は少しばかり気がかりなことがあってね――。居間から目を離せなくなったのさ」
「なにがあっただ?」
「その……ちょっと変なことを聞くが――。ホントにただの世間話なんだが――」
私は慎重に口を開いた。
件の小説にハマった世代は、『黒の世代』として馬鹿にされ、王国中で笑われたからね。撤退準備は大切だ。
「なんだろなんだろ?」
「きみってもしかして、前世の話とか好き?」
「ゼンセ!?」
ハルカは驚いたように言った。
「あっ、興味なければ別にいいんだ。ただの世間話さ、ハハハ」
私は話題から撤退しようと思って冗談っぽく笑った。
だが、ハルカの反応は違った。
「ゼンセは好きだ」
「えっ!?」
「好きだけど、それがどうしただ?」
ハルカは何事もない話題のように真っ直ぐに私を見つめる。
その落ち着きっぷりに、こっちのほうがうろたえてしまう。
『闇曜日の
世代の違いだろうか?
ハルカくらい若いと、闇の妄想をこそこそ愉しむ必要もないのか?
「そ、その……。前世トークとかしても大丈夫?」
「何でも大丈夫だよ」
ハルカは嬉しそうに言って、食卓の椅子に腰掛けた。
「そ、そうか。嬉しいな。じゃあ聞くけどさ、聞いちゃうけどさ」
私は思わぬところで同好の士と出会えた感激で、胸を高鳴らせながら尋ねた。
「――ハルカの前世の名前って、どんなの?」
むほほほ……! たまらない話題だよぉ――!
ちなみに私の前世ネームは、『チズ・華・ヴァシュピーレン』って言うんだ。
この名前を考えるのに一ヶ月くらいかかったな。
「ゼンセの名前だか?」
「うん。どんな名前なの?」
「マナン・マナマ」
ハルカは一瞬もためらわずに言った。
「ほぉおおお~~~」
「そんなに驚くこと?」
「う、うん。私も、私の趣味の友人たちも――。若干の照れが入るからさ。ハルカは堂々としてるなあって思って」
「なんだか分からないけど、光栄だべ!」
ハルカははにかんで肩をすくめた。
「もっと他に前世の情報ある?」
私は食い気味に尋ねた。
「えっと……。ゼンセはすごい美人だよ。町の人が振り返るくらいの美人で、草原に咲く百合の花みたいだ」
ふおおお……。前世は美人設定かぁ~。照れもなく言う! しかも草原に咲く百合の花とな? 文学的じゃないか! この子、かなり読み込んでいるな!
私は思わず拳を握りしめ、ぶんぶんと振った。
「どうしただ?」
「いやいや……あまりの感激にね」
「ふうん……?」
「それできみの……前世の仕事は何をやっていたんだい?」
私はハルカとの会話が楽しくてたまらなかった。
どんな答えが返ってくるのか、期待で一杯だった。今という時間が永遠に続けばいいとさえ思った。
「ゼンセはゼンセだ」
ハルカは謎めいた返事をしてきた。
「ん……?」
どういうことだろう? 前世は前世? 何かの謎かけ?
私が怪訝に思っていると、ハルカは情報を追加した。
「あ、でも本当はゼンセは精霊教会の司祭様なんだよ。教会の隣に学校を作って、ゼンセをやってくれてるんだ」
何、何々? ちょっと待ってくれ。意味が分からないぞ。ハルカの話のレベルが高すぎる!
私は話を理解しようと、必死で頭を回転させた。
私の混乱を余所に、ハルカは話を続ける。
「私は教会に行けばゼンセに会うし、学校に行けばゼンセに会うし、すごいお世話になってて、ゼンセには頭が上がらないよ」
ゼンセ、ゼンセ、ゼンセ……。
よく聞いているうちに、ハルカの発音はゼンセじゃなくてセンセなのに気付いた。
センセ?
先生?
この子、前世じゃなくて『先生』の話してる――ッ!?
「先生は誰にでも優しいし、みんなに尊敬されてるし、先生みたいに立派な大人になるのが私の目標だぁ」
おいおいおいおいおいおいおいおい――!!
私の勘違いかいッ!!
前世と思ってる人と、先生と思ってる人のすれ違いコントになってしまった。
くっそ!
まぁー。
そりゃそうだよねー。
10年も前のベストセラー小説、ハルカが読んでるとも思えないしな。
居間にあるのは、ハルカのお母さんが買った本かな?
『無巻』しかないってことは、最初だけ買って続きを読んでないってことだし、お母さんも熱心な読者ではなさそうだ。
前世を語らい合う闇の
「チエリーさん? 何ニヤニヤしてるだ?」
「はははっ、何でもない! 何でもないのさ!」
*****
私の闇の番外編はこれで終わりだ……。
隙あらばいくらでも語れるので、折を見て語りたいと思う。
呆れずについてきてくれる強者を待っている……。
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