【魔法×YouTuber】底辺魔道士ぼやき配信してたら、精霊のイイネで魔力が超インフレ!そして聖者になるチエリーさん【悩み解決・村落防衛・ダンジョン攻略】
第32.5話 番外編2 ††† 闇の小話その2 †††
第32.5話 番外編2 ††† 闇の小話その2 †††
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この話はいわゆる番外編その2だ。
モコッチ村から王都に帰還した直後の話なのだが、あまりにもくだらなすぎて語ることをためらっていた。
私の趣味に傾きすぎて、多くの読者が逃げ出す懸念があった。
なのでもし「くだらないな」と思ったら、さーっと読み飛ばして、下の方にある
『◆◆◆ そしてある冬の出来事 ◆◆◆』から見てもらえると助かる。
そこには今後の話の手がかりがある――。
*****
久しぶりに王都に戻ると、下宿の階段の踊り場で、ぼろきれにくるまって座ってる女の子がいた。
見たことあるなぁーこの光景、と思った。
女の子は眼鏡をかけていて、帽子を目深にかぶっている。
「チエリーさん、久しぶりですね。覚えていますか? 私は3番街中学の新聞部の記者! スター・エトロです!」
眼鏡のスターは立ち上がり、掴むように握手してきた。
「いや、一応覚えてるけど……。何してんのきみ?」
「チエリーさん、辺境の村で大手柄を上げたそうですね。その噂を聞きつけまして」
スターはそわそわしながら言ってきた。
「取材……とかいうヤツ?」
「そうです! 聞かせて下さい! 武勇伝を聞かせて欲しいんです!」
「あー。う~~ん……」
私は言葉を濁した。王都には今着いたばっかりで、まだ下宿のドアも開けていないのだ。
長らく歩きっぱなしで足がぱんぱんになっていたし、さっさとベッドに寝転がってくつろぎたかった。
「武勇伝聞かせて下さいッ!」
「うう~~ん……」
ドアの前で話をしたい気分じゃなかった。
「チエリーさんっ!」
「う~ん……」
何て言って断ろうかな? 中学生が目を輝かせているのを無下に追い払うのもなんだけどさ……。
私が冴えない態度を見せていると、スターは誤解したらしかった。
「なるほど、人に言えない仕事をしてきた……。そういうことですね?」
「まあ、そんな感じかな……。じゃあ、そういうわけで……」
私は適当にごまかして自分の部屋に入ろうと思った。
だがスターは食い下がる。
「チエリーさん、
スターは意味ありげな視線を向けてくる。
「……」
「
スターは眼鏡を輝かせて、にやりっと笑う。
「ほう……」
なるほど、こいつ……。味を占めたな。
作り話というテイで、私が秘密の話を打ち明けてくれるものと考えているらしい。
二人の間に生まれた密やかな符丁……。それが
まあそんなようなことを考えているのだな。
ふふっ……。
よかろう。
作り話は私の大好物……。
言うなれば別腹。疲れた身体をリフレッシュする、心のデザートなのだった。
「どうですか、チエリーさん?」
スターは上目遣いに見つめてくる。午後の日差しが彼女の顔に深い影を落としていた。
「本当に聞きたいのか……?」
私はぼそぼそとした声で言った。
「聞きたくないとでも?」
「興味本位で踏み込むと後悔するぞ?」
私は既にノって来ていた。
「後悔はしないつもりです」
「いいだろう。今からする話は、本当の作り話だ。だから、他言は無用だ……」
私は秘密のベールのごとく前髪が顔にかかるように引っ張った。
「わかりました」
「……」
「……」
私たちは見つめ合った。
スターは固唾を呑んで私の言葉を待っている。
「漆黒の闇だけがそこにあった……」
私はゆっくりと語り出した。
「しっこくとは?」
「漆のように黒い、真の闇さ――」
「かゆくなる感じの?」
「かゆくはならない――」
「かぶれたりもしないのですか?」
「かぶれもしない。鼻をつままれても分からない、本物の闇さ。闇以外は何一つ存在しなかった――」
「空気は? 空気もないのですか?」
「空気はある――いや、ない。闇以外は何一つ存在しなかった――。あまり細かく知りたがってはいけない……」
「どうしてですか?」
「
「なら……仕方がないですね……」
「やむを得まい……」
私はけだるい表情で天井を見上げ、ため息を吐いた。
そして続ける。
「それは純粋な闇だった。私はその闇の中に立ち尽くしていた。いつまでそうしていただろうか? 一時間、二時間……? いや、一週間は立ち尽くしていたのかも知れない……。気が遠くなるほどの時間が経った……」
「ごくり……」
「そしてふいに終焉が訪れた」
「来たのですか、魔物が?」
「来たさ……。来たさァ……」
「来たというのですね……」
「来たのだよ……。私がずっと待ちわびていた魔物――『宵闇の黒魔・二つの心臓を持つ盗まれた罪』がやって来たのだ……」
「んっ?」
「魔物がやって来たのだ……」
「魔物の名前、もう一回言ってもらっていいですか?」
「『狂い闇・翼の折れた魔は鎖を引きちぎって罪を心臓』がやって来たのだ……」
「1回目と2回目でちょっと違いますね……」
私たちは視線を交差させた。
スターの瞳は私を真っ直ぐに見ている。
私は前髪を二回ほど手ぐしでとかし、陰の者の圧力を発生させた。
「いや……、どうだろう?」
「どうだろう、とは?」
「確信を持って言えるのかい?」
「えッ……?」
「本当に1回目と2回目が違うのかと聞いている」
「違う……と思います」
「本当に?」
私は静かに、しかし追い詰めるように言う。
壁ドン!
スターは首を振り、小さく身震いして意見を撤回する。
「いえ……。同じでした。1回目と2回目は同じでした」
「明らかにね」
「はい、完全に同じです」
「構わんよ……」
私はそう言って顔を上げた。夕刻の強い日差しが下宿の階段に差し込んで、あらゆるものの影を濃くしている。
階下の酒場では宴の始まりの雑談がざわざわと聞こえ、音の境界を曖昧にする。
「語るには、よい
などと悦に入っていると、スターの背後の階段の陰から、下宿の大家さんがこちらを見ているのに気がついた。
口元がニヤついている。
噂好きの老婆は、私たちの話を盗み聞きしているらしい。
「……っッ!」
私は体温の上昇を覚えた。背中に汗もかいた。
「今日の話はここまでだ……」
私は急いで切り上げることにした。
「えっ!? もっと聞きたいです! まだどうやって倒したのかを聞いていませんッ!」
「すでに話した」
「えっ? いつ?」
私は彼女の耳元に口を近づけてこっそりと囁いた。
「あまりの恐怖に、きみの脳が記憶を消してしまったのだろう。覚えていると心が壊れる。これ以上聞かない方がいい……」
「ヒッ……」
彼女は喉の奥で小さな悲鳴を上げ、青ざめた顔で私を見つめた。唇には髪の毛が一本挟まっていた。
こんなドラマチックな怯え方をするやつは見たことがない。
こいつ、なかなかの才能がある……。
もっと話をしたいが、今日はここまでよ!
◆◆◆ そしてある冬の出来事 ◆◆◆
この少女、スター・エトロのことはこれきり忘れていたし、二度と会うこともないと思っていた。
だがしかし、冬になり、私は彼女の名をもう一度思い出すことになった。
彼女の名は、国立魔法学園の入学試験一次合格者リストに載っていた。
魔法学園の入試は国を挙げたイベントなので、進捗が新聞に掲載される。
合格者リストには、私の一番弟子(仮)であるハルカ・モコモコーナや、魔法予備校の教え子であるウルミやシバリンたちの名もあった。
どういうわけか、受験の年齢に届いていないはずのクク・ピリカラニカと、受験の年齢をオーバーしているマリモ・マリメッコも載っていた。
王宮から追放された王女殿下の名前もあった。
私にろくでもないいたずらを仕掛けてきた、あの王女殿下だ。
今年の受験は波乱の展開しか予想出来なかった――。
††† あとがき †††††††††††††††††††††††††
番外編まで読んでくれて、ありがとう。
こんどこそ本当のフィナーレ、第1部は終わりだ。
第2部は、私の弟子(仮)のエルフ娘・ハルカや、魔法予備校の荒くれ
引き続き読んでもらえると嬉しい……!
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その一つ一つが私に届き、魔力となって――。
次の旅への力となる――。
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