第50話 聖者戦4:告白の木の葉


 ガインッッ……!!


 巨大なかぎ針はマリモの盾に当たって跳ね返る。


『マリモ・マリメッコ

 耐久:8130』


 マリモの耐久は2500削られた。あと3発ほどは耐えられそうだが――。


 ドオオオオオオオオオオオン…………!


 足音が地を揺らし、波を作って迫り来る。


 ザアアアアアアアアアアァァァァ……!


 無敵騎士ゴーレム――!


 私は奴を仰ぎ見る。バイザーの向こうの魔力光が、地獄の炎のように輝いていた。


 あのゴーレムの間合いに入ったら、大剣の一振りで終わりなのは目に見えていた。


「ククさ――んっ!」


 ザッ! ガボッ! ザバァッ!


 マリモは必死に水をかき分けながら、ククの元を目指す。


「帰れっ! こっちに来るなッ! あたしは一人で出るから余計なお世話ですぅ! とっとと行きやがれと言ったら行きやがれ――――ッ!!」


 ククの叫びは悲鳴に近かった。


 私は精霊石を持ち上げ、精霊さんたちに二人の姿を見せる。


 精霊さんは心が動かないと魔力が出ない。


 だから私は、精霊さんたちの心を動かすための言葉を探す――。


 美麗な言葉も修辞も、私は何も持っていない。


 できるのは、真摯な説明だけだった。


 ガンンッッ!


 マリモは再び巨大かぎ針に襲われて、2500の耐久を失っていた。


「あのメイドはマリモ。ククの乳母の娘で、ククのことを妹みたいに思ってる。本当の妹は赤ん坊の頃に死んじゃったから、なおさらククのことを大事に思ってる。ククのたった一人の理解者だ――」


 ククは泣きながらわめいていた。


「マリモ、おまえはクビだっ! ずっと前から嫌いだった! 本当にあたしに嫌われてること分かりやがれっ!!」


「ククは没落貴族で貧乏で、子どもたちに馬鹿にされてきた可哀想なやつだ。暴言ばっかり吐くしひねくれてる。精霊さんの印象はよくないかも知れないけど――。ククは虚勢張って生きてるだけなんだ。貴族のプライドで素直になれないんだ」


 私の周囲で渦巻く水の中に、マリモの手帳と、木の葉の手紙が流れていた。


 私は木の葉の手紙をすくい取った。


「ククは自分の口で言えないことを、精霊さんのふりをして、手紙に書いて伝えてた。ククのひねくれでマリモが傷つくたびに、謝ったり、本心を伝えようとしてたんだ。これがククの手紙だ。あいつの人となりを知って欲しい――」


 私は木の葉の手紙を、精霊石に向けてかざして見せた。


『ククは本当はマリモに謝りたいのですよ。口が悪くてごめんなさいね。精霊より』


『ククはマリモのことが大好きですよ。悪口は全部嘘なのですよ。精霊より』


『ククはマリモとずっと一緒にいたいと思っていますよ。ククのこと許してあげてね。精霊より』


『ククは貧乏ですまないと思っていますよ。マリモにいい暮らしをさせてあげるために、宝探しをはりきっていますよ。精霊より』


 ククの心が伝わるように、木の葉の手紙をめくり続けた。


「ククは不器用なだけなんだ。口は悪いし態度も悪いけど、本当は普通の女の子なんだ。精霊さん、どうか! ククとマリモを助ける力を! 私にッ! 貸してくれ――――――――――ッッ!」


 私は力一杯叫び、祈りを込めた。


 チ、チチチチチチチィ――――!


 精霊石が激しく明滅し、私の瞳に精霊さんのメッセージが押し寄せる。




『うわあああああん!! 魔力:+5000』『支援! 魔力:+6000』『何というひねくれ者! 魔力:+5900』『誤解! 魔力:+8000』『支援! 魔力:+9000』『支援! 魔力:+10000』『早く助けろ! 魔力:+9999』『わあああん! 魔力:+8000』『共感! 魔力:+11000』『こういう子だったのか……。魔力:+9000』『私はずっと見てたから知ってたの! 魔力:+31000』『涙! 魔力:+9000』『ククとマリモを救え! 魔力:+10000』『チエリー! 魔力:+8990』『支援ですわ! 魔力:+30000』『キマシタワー! 魔力:+50000』『支援支援支援! 魔力:+9999』『急げえええええ! 魔力:+9999』




 大量の魔力が流れ込み、髪が逆立つような感覚を覚える。


『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:240887』


 私の魔力は、240887に上昇した。


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