第44話 デカケツと罵られる。あと、ダンジョンの攻略法

「クク、マリモ、ゴーレムの歩いた後をついていくんだ。絶対に踏み外すな。ルートを逸れるとトラップがある」


 私はそう言って、ダンジョンへの突入を開始した。


 カシャン、カシャン、カシャン……。   


 陶器みたいな足音を立てて、騎士ゴーレムがダンジョン内に踏み込む。


 トラップは発動しない。


 それを確認してから、私たちは一列になってゴーレムの後を追う。


 カシャン、カシャン、カシャン、カシャン、カシャン……。   


 このルートも大丈夫。


 私たちはまた後を追った。


 万が一トラップが発動したら、ゴーレムに犠牲になってもらう算段だ。


 ゴーレムを失ったら、またゴーレムを召喚して同じことを繰り返す。


 これを続けていけば、土人形召喚呪文サモン・ゴーレム用の魔力が切れない限り、安全に深部までたどり着けるだろう。


「でも不思議ですね、トラップが全然働きませんね? トラップは入り口にしかなかったのでしょうか?」


 しばらく歩いたところで、マリモが疑問を口にした。


「ホントですぅ。トラップなんかないんじゃないですか?」


 ククは足下の小石を拾って、暗がりに放り投げた。


 シャキンッッ!!


 床面から超巨大な刃物がせり上がり、家一軒を粉々にできそうなストロークで空間を切り裂いた。


 ゴォォォオオオオオオオオオオッッ!!


 トドメとばかりに炎が吹き上がり、熱波が押し寄せて私たちは危うく焦げそうになった。


「きゃあああああっ!」


「おまッ!! 余計なことすんなッ!!」


「や、やかましいですっ! あたしのやることに口出しするなですぅ! このデカケツめッッ!!」


 パシ――――ンッ!


 ククは私の尻に思いっきりビンタをかましてきた。


「あッ――! なにすんだッッ! 貴様ァ!!」


 私は声を大きくしたが、よく見たらククは手を振り上げたまま小さく会釈していた。


 またこれで謝ってるの? もおやだぁ~~。やだこの人ぉ~~……。




「トラップが発動しないのは理由がある。念のためにゴーレムに先導させてるけど、私たちはニャニャンが作った避難経路を歩いてるんだ……」


 私はククとマリモに種明かしをした。


 国立魔法学園の教科書、『ダンジョン探索概論』


 その教科書には古今のダンジョンや洞窟、遺跡の探索方法が書かれており、猫魔道士ニャニャンのダンジョンも例として挙げられていた。


 ニャニャンはいたずら好きで、人の虚を突くトラップを作るので有名だ。


 だが、ニャニャンは避難経路もきっちり作る人物だという。


 凝ったトラップに仲間が巻き込まれないように、避難用のサインを残しているというのだ。


「ほら、あちこちに落書きがあるだろ?」


 床面や突き出た岩のそこら中に、魔法の光を放つサインが見える。


 木の葉の絵。エルフ文字。数字。魚の絵。シャフトロニカ文字。動物の絵。猫の足跡の絵。


 サインは多種にわたり、ただの落書きみたいにも見えるが――。


「あの猫の足跡が正解のルートなんだ。ニャニャンのダンジョンにはそういう定石があるって教科書に書いてあった……」


 私は猫の足跡の絵を指差して、ゴーレムを向かわせた。


 カシャン、カシャン、カシャン、カシャン、カシャン……。   


 トラップは発動しない。


 このルートも当たり。この目印を順繰りにたどっていけば、安全は確保されるというわけだ。


 ククは舌打ちする。


「ふん。ちょっとばかりうまく行ったからって、調子に乗るんじゃないですよ」


 いやきみ、財宝欲しいんだよね? 私はきみの護衛なんだよね?


「こんなクズ、雇うんじゃなかったですぅ~」


 そう言いながら、ククは小さく会釈していた。


 思ったことと反対のことを言わないと死んでしまう病かな?




 しかしダンジョンとは言うが、その実態は広大で天井が高い洞窟だ。


 分かれ道もなく、あまりにも開けっぴろげなので、峡谷を進んでいるような気分になる。


 目的地と思わしき最深部には、さすがに外界の光も届かなくて暗がりが広がっている。


 私たちはその闇を目指してひたすら歩いて行った。




 どれほど歩いた頃だろうか。


「ニャンニャカニャ~~~~~~~~~ン♪」


 闇の中に突如、少女の声が響いた。軽やかに歌い上げるような、まるでファンファーレみたいな調子の声だった。ククの声でもマリモの声でもないし、遙か上方から聞こえたようだった。


「……!?」


 私はとっさに魔道士の杖を構えた。 


「誰かいるのですか!?」


 マリモが問いかけた。


「コヒュ――――!」


 ククは恐怖のあまり変な呼吸音を立てた。


 ファォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン……………………。


 霊妙な調べとともに、青白い光でダンジョンの内部が照らされて、暗闇がすべてかき消された。


 いったい何が起こった?


 ついに財宝にたどり着いたのか……!?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る