第42話 恐怖のダンジョントラップ

…(前話のラスト再掲)……………………………………………


 壁面には古代エルフ文字で、こんなことが書いてあった。


『その時が来たら、ここに魔力を充填するといいの。できるだけ沢山』


 その時が来たら? どういう意味だろ。宝を取り出す時のことかな?


 よくわからないが――。


 充填すると言ったら、魔道士にとっては一つの呪文しか思いつかない。


 私は魔道士の杖をベルトから引き抜いて、岩肌に当てた。


魔力充填呪文チャージ!」


 呪文の詠唱に反応し、杖先から激しい光がほとばしる――。


…………………………………………………………………(再掲ここまで)…



 ブゥゥウウウウン…………。


 私の魔力が岩肌へと吸い込まれていく。魔力の光が波紋のように広がっていき、岩肌に拡散する。


 魔力はできるだけ沢山ということだったので、とりあえず手持ちのほぼ半分を注ぎ込んだ。


『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:5700』


 私の魔力は10700から5700へ減少した。


「これくらいで大丈夫だろうか……?」


 岩肌に目を凝らしていると――。


 ゴゴンッ!


 突如、岩肌が開いた。


「ひゃわわ!!」「まあ!」


 ククとマリモが声を漏らす。


 ゴゴン、ゴゴゴンッ……! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。


 まるで歯車みたいに左右と上方の広範囲の岩肌が開いていく。


 闇の空間に光が差して、内部があらわになっていく。


 天然の洞窟のようだった。鍾乳石が垂れ下がり、水が流れている場所もある。


 底面は緩く勾配しながら地の底へと続いている。


 それにしても、入り口はめちゃくちゃ大きかった。ククの屋敷がまるごと入れるくらい? ――いや、もっと大きい。


 小さめのドラゴンなら入れてしまうような、巨大なダンジョンが私たちの前に姿を現した。


 これが猫魔道士ニャニャンのダンジョン……!


 私はため息を吐いた。


 ちょっとテンションが上がってきちゃったな……。


「その地図にはダンジョン内の道案内は書いてないのかい?」


 私はククに尋ねた。


「書いてないですぅ。地図はここまでですぅ」


「そっか……。じゃあ自分でルートを決めるしかないな」


 私は入り口の前で立ったまま、壁面や足下を慎重に見回した。


 ニャニャンについては魔法学園の授業で習っていた。


 猫魔道士ニャニャンはいたずら好きで、凝ったトラップを仕掛けることで知られている。


 建国時代にはトラップを駆使して大量の魔物を仕留めたという。


 ここも財宝の警備にどんなトラップがあるのか分からない。


 慎重に行かなければ……。


「早く行くですぅ」


 どんっ!


 ククが後ろから押してきて、私はダンジョンの中に転がり込んだ。


 キラン!


 私の鼻先をギロチンみたいな刃物が、さあーっと通り過ぎていった。


「あぶなッッ!!」


 私はきりもみしながらダンジョンの外に飛び出した。


 ゴオオオオオオオオオッ!


 背後の床面から、盛大に火柱が吹き上がるのが見えた。


「おまっ! 何すんだッ!」


 私は目をむいてククに食ってかかった。


「も、もたもたしてるのが悪いですぅ!」


「もう少しで死ぬところだったぞッッ!! 勝手なことすんな!! しゃれになんねえ!!」


「やかましいですぅ! お金が欲しかったら死ぬ気で働きやがれですぅ!」


「貴様ァッッ!!」


 私はもう雇用主であることも忘れて手を伸ばしかかった。


「待って下さいッ!」


 マリモが私の腕にしがみついてきて、釈明を始めた。


「ククさんは貴族なので素直に謝れないのです。あと、ひねくれてるので謝れないのです! これでも申し訳なかったと謝っているつもりなのです」


「えぇ~~? ほんとぉ……?」


「本当なのです」


 マリモは真面目にうなずいている。


「分かったらとっとと働きやがれですぅ、クズめっ!」


 これ、謝ってるのぉ~~? ほんとかよぉ~~。


 よく見るとククは暴言を吐いた後に、ほんの微かに会釈をしていた。


 そういうこと……!? 


 この小さい会釈が謝ってるサインなの?


 小鳥と会話するくらい難しいな!




 私たちは気を取り直して、ダンジョン探索の支度に取りかかった。


 マリモはメイド服の上から胸当てを身につけ、食料でパンパンのリュックを背負い、剣と盾で武装した。


「私は準備完了です」


 ククは私が引き裂いたシャベルを岩で打ち付けて、どうにか見れる形にして握りしめた。額当てと胸当ても付けている。


「あたしもバッチリですぅ」


「私は……もうちょっと待ってくれ」


 私は野営道具のリュックを背負い、ダンジョンを覗きながら考え込んでいた。


 私の現在の魔力は5700。


 聖者の遺構ともなれば、魔力がたったこれだけでは心許ない。大型のトラップが出てきたらひとたまりもないかも知れない。


 せめて普通コモン級魔道士の水準である、魔力50000くらいの用意は欲しかった。


「何をグズグズしてるです? とっとと行くですよ!」


「少し待って欲しい。魔力を増やしていきたい」


 私はここで、告白の儀式コンフェッションを行うことにした。




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