第39話★嫌な貴族を懲らしめる闇の魔法
(ククのイラスト)
https://kakuyomu.jp/users/fuwafuwaso/news/16817330650999763155
私の問いかけに、ククは暴言で答えてきた。
「黙りやがれですぅ。おまえは大人しく荷車に座ってるですぅ。一切の質問は許さないですぅ」
完全にこの貴族様、私のことを下女かなんかだと思ってなめてるな。
よかろう……。
私はゴールド目当てで何でも言うこときく人間じゃないってとこ、見せとかないとな。
私は縛られたまま、呪文を詠唱した。
「
まぶたの裏に魔力の光が走り、身体の周囲に言い知れぬ力場が沸き起こるのを感じる。
私のような非力な女を騎士並みの腕力に引き上げることもできるし、騎士以上の怪力を宿すことも可能。
筋力を上げるのではなく、魔力の力場によるサポートなので、細腕だろうが何だろうが途方もない力が手に入る。
そのぶん消費魔力も大きいのだが……。
とりあえず攻撃力100の怪力を一回だけ発揮出来るように、力を付与した。
『チエリー・ヴァニライズ
攻撃力:100』
攻撃力100というのは、騎士の全力攻撃が攻撃力10と見積もられるので、その10発ぶんの力に相当する。
ちなみにウルミやマリモの一撃も攻撃力10なので、彼女たちの攻撃力がいかに抜きん出ているかが分かろう。
「ご主人、私は何でも言うことをきく召使いではないんだ……」
言いながら、攻撃力100の怪力発揮。
縛られていた手首の縄と、上半身に巻かれていた縄を、力業で引きちぎった。
ブチブチブチイッッッ!!
「ひいッッ!」
ククの悲鳴が聞こえた。
「
攻撃力を使い切ったので、もう一回攻撃力100を付与した。
顔に被されていた袋と、目の周りに巻かれた目隠しの布を一度に掴み、一息に破りちぎった。
ビリリリリリリ! ブチブチィッ!!
「ひゃわわわ!」
視界が開ける。久しぶりの陽光がまぶしい。
光に顔をしかめながらククの方を見ると、意図せずめちゃくちゃ睨んでるみたいな顔になったらしい。
「ひぃっ! ひぃっ!」
光でまぶしくてククの顔や姿はよく見えなかったが、ロバにしがみつきながらうろたえてるのは分かった。
まあ十分威圧出来たかなとは思ったものの、心の中の趣味が騒ぎ出して、もう一発デモンストレーションをしたくなった。
「
さらに攻撃力100を付与した。
そしてうつむき、顔の陰影が濃く出るようにして、闇の者の感じを出す。
「ご主人、私は心の中に闇を飼っている……。闇は……機嫌が悪くなると暴れ出してしまう……。殺せ、殺せ、ヤツを殺せと暴れ出す……」
黒の世代的な趣味のセリフを言いながら、足先に触れた道具を手に取る。
それは発掘用のシャベルだった。
私はシャベルの先端を両手の指先でつまみ、鉄製のそれを引き裂いた。
ピリリ~~ッ。
「きゃああああああああああああ――――――――ッ!!」
ククは悲鳴を上げ、そのまま倒れてしまった。
あっ……。すまん……。
ちょっと……おどかし過ぎちゃったかな?
ククが倒れてしまい、ロバの旅はいったん中止になった。
「ククさんッ!!」
マリモがぐったりとしたククを支え、木陰に座らせる。
光に目が慣れてようやく分かったのだが、ククは思ったより子どもだった。12~3才といったところだろうか。マリモと同じようなボリューミーなおだんごヘアをしている。
ええ~~、ご主人って言うからもうちょっと大人かと思ってたのに。そんな子どもだったのか……。マジで申し訳ない……!
ククは青い顔をして目を閉じてる。
「コヒュ――! コヒュ――!」
なんか変な呼吸音……。
過呼吸だろうか? そんなに? そんなに怖かった!? いや重ね重ねすまない……。調子に乗って悪い趣味を出してしまったよ。私はこの趣味でよく人生を失敗してるんだ……。
「ククさんしっかり! このキャンディをなめるのですよ!」
マリモはククの口の中にキャンディを突っ込んだ。
「コヒュ――! コヒュ――! ペロペロペロ! フヒューフヒュー♪」
ククの顔色に赤みが差してくる。甘味で回復したようだ。
「あの……。ご主人? というかククさん。すまなかったよ、おどかしすぎてしまった。私はそこまで闇の者ではないんだ。闇の者のふりをするのが好きなだけで……。そういう芝居をする強い癖があって……。本当に殺したりはしないから安心して欲しい……」
私は膝をつきながら語りかけた。
「うるさいですぅ」
ククは草を引きちぎって投げつけてきた。
「申し訳ない……。私は依頼の内容をちゃんと知りたかっただけなんだ」
「やかましいです。おまえのようなあらくれ者とは口を聞きたくないですぅ。マリモが説明するですぅ」
あらくれ者って言われちゃったよ……。
でも説明はしてくれるってことかな。
ククはぷいっと顔をそむけた。
「~~~~」
マリモは声にならないため息を吐き、私の方を見た。
「聞かせてくれるかい?」
「はい。私からご説明します。ここにいるとククさんの容態に差し障るので、少し離れたところで話しましょう」
私たちはククの姿が遠目に見える木陰に移動して、話を始めた。
「いきなりロバ泥棒のパーティになってしまって、私は不安になってしまったんだ」
「それはすみません。私も予想外でした。ロバの持ち主にはきちんとお詫びしたいと思います」
マリモはメイド服のエプロンを居心地悪そうにいじくりながら答えた。
「ダンジョンの宝探しというのは本当の話なのかい? どこかに泥棒をしに行くのではないの?」
「それは大丈夫です。ククさんが宝の地図を持ってます」
「地図の信憑性は問題ないの? こう言っちゃ何だが偽物の地図を作って売りつける詐欺師がいるもんでね」
「それも大丈夫です。地図はククさんが屋敷の屋根裏から見つけたと言っていました。ピリカラニカ家は古い家柄ですから……」
「王家の血筋なんだよね?」
「はい……」
とそこまで言って、マリモはククの方を振り返る。
ククは遠くの木陰で座ったまま、水筒の水を飲んでいた。
マリモは声を潜めて、重要な打ち明け話を始めた。
「ピリカラニカ家は実は――」
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